第14話 ホウモン
電車に乗って、手紙に記された住所に向う。
初めて降りる駅、初めて見る景色、ここで見るもの全て初めてだ。五感がやたら働いた。
とある住宅街に入った。自分が住んでいる家とは一体何なのかという劣等感に襲われる。
赤い屋根の大きな家に着いた。色とりどりの花に迎えられ、玄関を二回叩いた。
少しの間があり、ゆっくりと玄関が開いた。
文通をしていた事を伝え、証拠に持って来た手紙を見せた。
お互い挨拶し笑顔を見せて、家の中へ招かれた。
脚の長い椅子に座り、自分の母よりも随分と綺麗な母と向かい合った。
しかし、手紙の本人が居ない事に気付いた。
「あの、今日はお招き頂きありがとうございます。」慣れない敬語を使ってみる。合っているか不安だった。
ぎこちなさを感じ取ったのか、お母様は気を使わなくて良いのよと言ってくれた。
お母様と呼ぶのが一番相応しいと思う。それ以外の呼称は似合わない。
「手紙の娘さんの姿が見えないのですが。」
少し遠慮がちに聞いてみた。
「今は、あなたが来るのを楽しみにしてたのでケーキを買いに行きました。とてもおいしくてあなたと一緒に食べたいと喜んでましたから」
「それは楽しみです。」
「そうなのよ。だから少し、あの娘を待ちながらお話でもしませんか?
あの娘ったら、文通をしていたことは言っても、どんな人とは言わなかったから。」
「そうなんですか。でも、僕もお母様にお会い出来て良かったです。」
笑いを交えながら、会話を進めていく。
「でも、こんな素敵な方がうちの娘と文通なんて・・・優しさもにじみ出ていますし。」
お母様は笑ってくれた。
お互いが笑い合うと、緊張感も少し和らいだ気がした。いや、実際に和らいだ。
ピンと張っていた背筋も少し丸くなっていた。
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