第4話 ハジマル
アラームが夢を覚ました。
1秒でも早く見知らぬ誰かに届けたい気持ちと共に急いで着替え素早く家を出た。
青々とした空、真っ白に近い綺麗な雲。
天気は時に、心を映しているのではないかという言葉を思い出すくらい当たる。
見知らぬ誰かから、友達になりたいという気持ちが空にも映ったのだろう。
足は非常に軽かった。
いくつかの信号に止まりはしたが、そんな事は関係なかった。この気持ちは誰にも止められない。
きっと止める事が出来るのは、絶望と出会ったときだろう。
赤いポストが手紙を飲み込むのを静かに待っていた。
長年、雨風にさらされて来たのが一目で分かる位、塗装が随分と剥がれていた。
ポストにこの手紙が落ちたとき、もう取り戻せない未来がやって来る。
それを思った時、素直に入れる事が出来なかった。どこか違う感情が制御しに来た。
しかし、一つ深呼吸し、自分でも驚くくらいスムーズに手紙は手から離れた。もう取り返せない。
しばらく、ポストの前から離れられなかった。
ポストの前で佇んでいると、後ろから声をかけられた。
その人は同じように自分の思いを託した手紙をその手に持っていた。
僕がこの場に居る事で、その思いを届ける事が出来ない。瞬時に判断した。
軽く頭を下げ、出会った場所へと足は向っていた。
もうそこには、何も無かった。
あるのは以前と変わらぬ景色だった。
でも、清々しい気分だった。今度は待つ番。
波のような期待を抱きながら返事を待つ。
こんな気持ち初めてだった。きっと人生とは初めてを繰り返し、その初めての数を減らしていくのだろうと、ふと思った。
でも、複数回同じ行為を繰り返したからといっていつも同じ感情が芽生える訳ではない。
その時の自分の心情、状況によって左右される。本当は全て初めてを繰り返し、それと同時に似た行動の繰り返しなのかも知れない。
座りながらそんな事を思っていた。
どこかから声が聞こえて来た。
辺りを見渡すと、犬の散歩をしている夫婦が居た。
その夫婦とは距離があったが周りに遮る物が無い事が影響しているのかその声は聞こえて来た。
一人で、そんな光景を見ていると自然と将来なんてものを考えてしまう。
明るいのか、それとも希望の無い将来かも知れない。
そんな事を考えているとその夫婦は目の前を通り過ぎて行く。日はまだ明るかった。
その場を後にして、家へと向った。
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