第31話 いい方向へ向かう為に

「なんでそんなに躊躇うんだ?廃絶は誰と話してたんだ?」


ワカトキは湯地に近づく。


「鳶田 怪くんと話していました。」


ワカトキはその言葉にドキッとした。


「鳶田 怪か…なんであいつと話してるんだ。」



狂乱の初代リーダーが殺されたその日、一人の男が仲間に加わった。

その男は廃絶側に付き、あの戦いで何人もの男を倒し、一日で仲間と認められた。

しかし、その戦いの翌日に狂乱を去っていった多くの謎が残る男。

ワカトキはあの戦いに参加しておらず、仲間からの情報で知っただけだが、印象に残っており、その名を覚えていたのだ。


「鳶田ってのは、どういう奴なのか未だに分からないし、その名前すら聞かなくなったから何もわかんないな…」


鳶田への接触方法を考えようとしていたその時、湯地が口を開いた。


「鳶田は奴隷を扱う人間。昔はあんな人ではなかったのに、どうしてなんでしょうね…人ってやっぱり変わるんですかね…」


「鳶田を知っているのか?」


驚いた顔でそう聞いた。


「ワカトキさんだけには話します。俺は鳶田の奴隷です。そして、廃絶は鳶田と繋がっていて奴隷を貰うことが出来ます。」


暑さのせいか、ワカトキの首筋を汗が伝う。


「奴隷…」


(そうか、鳶田は奴隷を使って廃絶の身代わりを用意したのか。でも、まだ鳶田がやったという証拠はない…)


ふと見上げると、湯地はすごく苦しそうな表情をしていた。

その顔はまるであの時の廃絶のようだった。



「ワカトキ…どうしよう…響が…」


廃絶からの電話で急いで駆けつけたがもう既に時は遅く、響は息をしていなかった。

その時、俺は初めて後悔した。

何故、あの場所に行かなかったのだと。


「ワカトキ、話がある。」


廃絶はとても苦しそうな表情でそう言った。

そして、誰もいない場所で廃絶は重い口を開けた。


「俺が廃絶を殺した。でも、別の奴が捕まったんだ。そして、その場にいた奴ら全員俺が殺ったことを隠した。」


「うそ…だろ?」


「嘘じゃない。」


「誰が捕まったんだ?」


「知らない奴だ。」


「どういうことだ?」


「詳しくは言えない。本当にごめん。」


俺は、初めて廃絶のことを怖いと感じた。

そして、それ以上は何も聞かなかった。

自首することを勧めようと思ったが、廃絶は誰かに脅されていると感じて言えなかった。



「ずっと鳶田が怪しいと思ってた。調べていたが、証拠も人柄さえもわからなかった。でも、どうやら今は違うらしいな。」


「え?」


いつもの表情に戻ったワカトキを見て首を傾げる湯地。


「湯地、俺と協力してくれ!廃絶を助けたいし、奴隷を解放したい。それに、湯地の知ってる昔の鳶田に戻したい。そうすれば全てがいい方向に向かう。」


そう言い、ワカトキは手を伸ばした。


湯地はキラキラな笑顔で「もちろんです!」と言って手を握った。

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