第21話 湯地と神無

欠伸をしながら目を覚ます湯地。

時刻は10時半を迎えていた。

ズキズキ痛むバツ印を抑えながらも家を出る支度をする。

今日はなんと言っても狂乱に入って初めての朝なのだ。

奴隷の時とは違うこの新鮮な感覚に少し心が踊っていた。


ピンボーン


数分経過した湯地の家にインターホンが鳴り響く。


「はーい。」


ドアを開けると、見知らぬ人が居た。

よく見ると目の下のバツ印がある為、狂乱のメンバーであることがわかった。


「初めまして。俺は、多賀 神無だ。昨日の狂乱集会で群上がり決闘してた人だけど覚えとる?」


「あんまり記憶にないです。」


「ハハッ!そっか、そっか!そりゃそうだよな!あの時、美波と話してたもんな!」


その言葉に驚いた湯地を見てまた笑いだした神無。


「ハハッ!いいリアクションだね!俺はあいつらの仲間だ。俺と美波と都でAAOってグループ組んでるんだ!俺が名前が付けたんだぜ!」


「…」


突然の事でキョトンとする湯地。


「とりあえず中入っていいか?」


「あっ。はい。」


そう言うと2人はリビングに入っていった。



「今日、親はいないのか?」


「親はたまにしか帰ってこないです。」


「そうか!」


そんなたわいもない話をしながら湯地がついだお茶を飲んだ。


「じゃあ。そろそろ説明するよ。俺がここに来た理由。」


そう言うと前のめりになり話し始めた。



「俺が来た理由その1は、俺の顔と名前を覚えてもらう為。その2は、美波達のやろうとしていることを説明する為に来た。」


「そうなんですか。」


「あぁ!俺の顔と名前は覚えたか?」


ニヤニヤしながら聞いた。


「多賀 神無さん。群上がりで2群へ上がった方…ですよね?」


神無は少し驚いた様子。


「そっそうだ!合ってる!大正解!俺の顔は覚えてないのに、2群に上がったことは知ってるのか!ハハッ!ハハッ!」


「それで美波がやろうとしていることって?」


つい早口になってしまった湯地。


「まぁ、落ち着けよ。」


そういうと湯地の肩をポンっと叩く。


「はい。すみません。」


「美波は湯地を助けようと動いている。都は廃絶を自分の知ってる廃絶に戻そうとしている。俺はそんなあいつらがほっとけなくて今ここに居る。」


「じゃあ。やっぱり俺の為に…」


「そうだ。お前の為に美波は動き、それに俺達が付いてきた。都も俺もお前を助けたいって思ってる!それぞれ覚悟も決めてる!だから、待ってろ!!」


湯地は泣いた。

こんなに自分を思ってくれている美波が居ること。

そして何より、都と目の前にいる神無でさえ、自分を助けようとしていることが伝わってきたからだ。


「うっ…うっ…」


「そんなに泣くな。何かあったら俺に言えよ。いつでも助けに来てやるからな!」


そう言うと湯地の頭を撫でた。


「そうそう!俺とお前は同い年だ!タメでいい!よろしくな湯地!」


湯地は涙を拭った。


「うん!よろしく!」

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