第20話 頼み事

「そろそろ帰ろっか。湯地にもあったし。」


そう言いながら腰を上げる美波。

辺りはすっかり真っ暗になっていた。


「そうだね。そろそろ帰るか。」


美波と都は冥利神社を去っていった。



「さっき湯地が片腕無い人に気に入られてたみたいだけど、狂乱に入ることになるのかな?」


帰り道、冥利神社での出来事を振り返り、話しながら家まで歩いていた。


「どうだろ?もしかしたらそうかもしれないね。」


また湯地の話かと気分を下げながら都は答えた。


「都のお兄ちゃんが狂乱にいた時って奴隷なんて居なかったんだよね?」


「居なかったよ。」


「なんで奴隷が必要になったんだろうね?」


「分からないけど、もしかしたら身代わりにするためなのかもしれない。」


都は驚いた表情をする美波を見ながら、自分の考えを口にする。


「私はお兄ちゃんが殺された時、見てたから分かるの。廃絶が殺したって。それなのに捕まった人は別の人だった。そう考えると奴隷を使って別の犯人を用意したとしか考えられない。」


「そうだったんだ…別の犯人が捕まってたのか…」


「でも、お兄ちゃんが居た時はそんなの無かったからきっと殺された時、身代わりを用意した人が狂乱に奴隷を作ったんだよ。」


都は、微かに残る記憶を辿り、兄が死んだ時の状況を思い出していた。


「私もその可能性は考えてたけど、わざわざ奴隷にしなくても、身代わりって形にしてそばに置いておけばいいのに、なんで奴隷ってことにしたのか不思議だったの。だからそういうんじゃなくて、もっと違う理由があると思う。」


そう言うと、美波は考え込んでしまった。


「はい!この話はまた今度にしよう!家の前に着いたよ!」


「ほんとだ。またね。」


そう言って2人は家に帰った。



「コーラ買ってきたけどいるか?」


そう言いながらワカトキは袋からペットボトルを取り出す。


「ありがとうございます。」


プシュー


炭酸の弾ける音にどこか安心を感じる。


ゴクゴクゴク


「やっぱり炭酸はコーラに限るな!」


「そうですね!」


楽しそうに話すワカトキにつられて思わず笑顔になってしまう湯地。


「俺、お前だけに話そうかなって思ってることがあるんだ。」


そう言い出すと、湯地の手を握り出した。


「えっ!?ちょっ!?」


驚いた湯地であったが、真剣な眼差しに、大事な話なんだと悟った。


「俺は、廃絶が奴隷を受け入れてる理由は自分の意思じゃないって思ってるんだ。脅されてる可能性だって考えたが何も分からない。だから、もし廃絶が狂乱以外の人と話してたら教えて欲しい。あいつは一人暮らしで、俺ら以外と話すことなんて滅多にない。頼んだぞ。湯地。」


(なんで俺なんかに頼むんだろ?しかも、廃絶くんと話してる所を目撃するなんて…4郡に入ったばかりの俺が運良く見ることが出来るのか?)


突然の話に戸惑いながら、出来るか不安でありながらも頷いた湯地。

それはこれから先、自分が廃絶に近づくことが出来るようになると都合がいいと考えたからだった。

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