第510話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョン地下十二階の暑さの続き

 サツキを追い詰める。今目の前のこのクールビューティーは、確かにそう言った。


「……はい?」


 至極当然の反応だろう。言っている意味が分からない。すると、ユラが親切丁寧に説明を始めた。


「つまりだな、一回で必ず成功させるには、脳内でしっかりと水着姿の自分を思い浮かべることが大事だと思うんだよな」

「それはまあそうね」


 ここまではおかしな言動はない。


「問題はこの先だ。もし服を着たままメタモラを唱えた場合、今着ている服がその間は消えちまうことになるからな、まずはそのローブは必須だから脱ぐ」

「成程、うん」


 炎耐性のあるローブなしで水着でダンジョンを彷徨くのは、さすがにあり得ないだろう。特に物理的な戦闘能力も運動能力も反射神経もあまりないサツキであれば余計である。


 思ったよりもユラがまともな話をしてきているので、サツキはユラを疑ったことを反省した。


「それでそのスライムの服も脱いでおかないと、水着で二十四時間彷徨くことになる」

「……うん、そうかもね」


 いや、段々怪しくなってきた。


「だから、下着一枚になってから、もうこれは絶対に成功させないと駄目だと思い込む必要がある」

「やっぱり我慢する」

「ちょっと待てサツキ、すぐにそう諦めちゃいけねえ」


 ユラは慌てて引き止めた。こいつ、裸が見たいだけじゃなかろうか。


「この階の安全地帯まで行って、服を脱いで、ウルスラの水着姿をしっかりと見せてもらうんだ」

「その間ユラは何してるの」

「サツキの前でローブを持って、アールから見えない様に隠しておいてやる」

「それって覗き込んだら見られる位置じゃない?」

「細かいことは気にすんな」


 だが、アールがいるなら無理に見ようとはしないかもしれない。だからといって、布一枚隔てた所で下着姿になるのは、さすがにいかがなものか。


「分かった、絶対に見ねえよ」


 仕方ねえな、という台詞が後から続きそうな口調で、ユラが言った。でもユラが絶対と言ったなら絶対だ。そこに関しては信じられるのだから、不思議なものだ。


「見られるのは嫌なんだもんな。裸で一緒の風呂に入った仲だっていうのに、サツキって遠慮がちムゴ」


 サツキは大慌てでユラの口を手のひらで封じ、キッとユラを睨みつけた。


「前に聞こえたらどうするの!」

「あ、わりい」


 あはは、とユラは笑うと、


「どう?」


 と、聞いた。まあ、見られないなら問題はないかもしれない。


「いい加減さ、裸にならない様にしてくれよ」


 ユラが切なそうに言った。何でそんな口調になるんだろうか。


「そうしたいのはやまやまだけど、でも別にユラは困らなくない?」

「いやあ、これが結構困ってるんだよな。衝動を抑えるっていうのか? なかなか俺みたいな健康な若者にはきついものがあってさ」

「はい?」

「……何でもねえ、口が滑った」


 ユラがそっぽを向いてしまった。怪しいが、意味が分からない。なので、サツキはお得意の技を繰り出した。とりあえず横に置くのだ。


「まあ、でもじゃあやってみようかな」

「あ、サツキ」

「うん?」

「出来栄えを俺が真っ先に確認するからな」

「……はい?」

「成功しても失敗しても俺が目視で確認する。どうだ、これなら成功させようって気になるだろ?」


 ユラが、実に楽しそうに笑った。

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