第511話 魔術師リアムの上級編・早川ユメ攻略二日目の昼飯
リアムと早川ユメは、小洒落たイタリアンレストランなる所へと入って行った。イタリアというのが国の名前であることは祐介から聞いて知っていたので、あとは何を頼むかが最初の難関である。
店内は天井が高く、女性の割合が高い。というか、客は女性しかいない。こんな中、潮崎はどうするのだろうかと不安を覚えたが、逆に羽田だって入って来ないだろうから、案外それでいいのかもしれない。
黒いエプロンを身につけた若い男性店員が、にこやかに注文を取りに来た。
「じゃあ私、このレディースセットAにしようかな」
「では私も同じ物を」
何とかなった。心の中でふう、と息を吐いたリアムだった。
出された水が入ったグラスを、早川ユメが美味そうに飲む。
まつ毛がいやに長いのは、つけまつ毛というものであろう。どちらかというと幼い顔立ちで、頬はふっくらしていて可愛らしい。唇もぷっくりとしていて、男から見るとかなり女性的で魅力的な外見をしている。髪の毛は緩く上に纏められ、うなじが美しい。己の魅せ方をよく心得ているのだろう。
リアムがじっと見つめるだけで何も言わないからか、早川ユメが顎に手をついて切り出した。
「で? あんたが何で嫌われてるって分かってる私をランチに誘った訳?」
随分とはっきりとした物言いだが、言いたいことは分かるので、リアムはそのまま説明することにした。
「嫌うも何も、まだ互いのことをろくに知らないであろう? だからまずは互いの先入観を取り払おうと思ったまでだ」
「だから私が聞いてるのは、なんでそう思ったかってことよ」
早川ユメは真っ直ぐな人間だ。嫌っていることを隠そうともせず、それを本人に言えるのはそういうことなのだとリアムは思っている。となれば、こちらも真っ直ぐにぶつかるまでだ。
「羽田さんと何があったのかを知りたい、と思ったのがそもそものキッカケだ」
「……はっ。じゃあ友になりたい〜とか言ってたのは嘘ってことね」
早川ユメは、リアムを馬鹿にする様に鼻で笑った。
「嘘ではない。今言ったではないか。キッカケだと」
「はあ? よく分かんないんだけど」
「誰かを悪者に仕立て上げ排除するのは容易だ」
「だから何を言って……」
早川ユメの顔には、苛立ちが伺えた。
「だが、私はお前がそこまでの悪人には見えなかった。正直羽田さんは何をしてくるか分からぬ恐怖を感じたし、実際犯すつもりで暴れられたので怖いがな、お前から感じるのは拒絶だけだ」
「え……羽田さんが何ですって?」
早川ユメの顔色が変わった。ということは、社宅に来た話は知らないらしい。
「まあ色々とな。だが私のことは今はいいのだ」
「いやよくないでしょ。あんた何でそんな平気そうな顔をしてんのよ」
「未遂にもいかなかったしな、それに祐介がいたから」
「山岸くん?」
リアムはにっこりと笑って頷いた。
「殴られ血だらけになっても立ち向かおうとしてくれた姿は、実に立派だったぞ」
「血だらけ……」
早川ユメは絶句した。
「まあそういう訳で、羽田さんが私を社長にあてがおうとしていたのも知っている」
「……あんた……」
驚き顔の早川ユメの口角が少し上がったかと思うと、肩を小さく震わせ始めた。
「ふ、ふふ、ふふふふ」
「どうした、気でも触れたか」
「あんたそこそこ失礼よね」
リアムを真っ直ぐに見た早川ユメの顔には、初めてリアムに向けた笑顔があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます