第435話 魔術師リアムの上級編二日目の限界

 祐介も着替えをすると、洗面所で顔を洗い終え歯磨きを済ませた。


「お待たせ。行こうか。お腹痛くない?」

「薬を飲んでいるから大丈夫だ」

「きつかったらすぐに言ってね」


 休みの日の祐介の前髪が好きで、リアムは玄関で先に靴を履いて待つ間、祐介を見ていた。視線に気付き、祐介が照れ臭そうに笑う。


「なに? そんなじっと見つめて」

「なに、祐介の休日の前髪が私は好きでな」

「……え」

「あ」


 思わずサラッと答えてしまったが、これはあれではないか? 祐介のことを好きだと言っている様なものでは。


「……へへ、なんか嬉しいな」


 祐介もリアムに続いて靴を履くと、もう習慣になりつつある覗き窓から外の様子を窺った。


「大丈夫そうか?」


 祐介がリアムに手を貸して立ち上がらせると、熱の篭った目でリアムを至近距離から見下ろした。


「どうした?」


 何故何も言わないのか。リアムが首を傾げると、祐介がリアムを扉に押し付けた。


 な、何だ何だこれは! どうした祐介!


 リアムは焦った。すると、祐介が言った。


「やっぱり、さっきのあんなのじゃ納得出来ない」

「え? さっきのあんなの? 何のことだ?」

「どうせならしっかりやった方がいいと思うんだよね」


 祐介の顔が近付いてくる。これは、まさか。リアムは祐介の目から目を離せないまま、尋ねた。


「だから祐介、お前は一体何の話をしているのだ」

「キス」

「え? いやちょっと待て祐介、早まってはいかんぞ! お前には未来がある……」

「もうそれ聞き飽きた」

「いやしかしだな!」


 祐介の唇が、リアムの唇のすぐ上まで来た。


「この次は、君からしてくれるまで僕ちゃんと待つから。だから今回だけ大目に見てよ」

「え?」


 次はリアムからするまで待つ? 待つのか? 祐介がリアムを? リアムが混乱しかけたその瞬間。


 祐介の唇がリアムの唇に触れた。


「ゆっ」


 カアッと身体が暑くなり、祐介の名を呼ぼうと口を開けたその隙間に、祐介の舌が入り込んできた。リアムの舌を絡め取ろうとする様な荒々しさに、リアムの頭が真っ白になる。


 当たる息の余りの熱さに、全身がぞわぞわし始める。何故だ、何故祐介は中身がリアムなのにこんなことをしているのだろうか。


 リアムの膝がガクッと落ちそうになった。すると、祐介が咄嗟にリアムの両脇を抱え、上から何度も何度もリアムの唇を奪っていく。


「ゆ、祐介、これ以上はもう……」


 立っていられない。息苦しくなり、は、と息を吐くと、祐介が切なそうな目でリアムを見た。


「次の機会っていつ来るのかな? 余計なこと約束しちゃったな」


 祐介はそう言うと、ズルズルと落ちていくリアムをしゃがんで膝の上に乗せる。


「だからもうちょっとだけ」


 そんなに飢えているのか? それともそうではなく、サツキの身体のみに欲情したのであろうか?


「顔、赤いよ」


 リアムを見てそう言って笑うと、また深い口づけを繰り返したのだった。

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