第436話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの地下十階
一行は、ようやく温泉階である地下十階に辿り着いた。
温泉があるからか、もわっとした少し重さがある湿気を感じる。
「あっちーな」
ユラが率直な意見を述べた。十階に降りてすぐ、案内図が建てられていた。ここは観光地か、思わずそうツッコミたくなる仕様であったが、まあないよりはあった方が有り難いには違いない。
「えーと、炊事場と野営地はあっちね」
ウルスラが額に汗を浮かべながら奥の方を指差した。そして目を輝かせた。
「凄い、これって炊事場とかを中心に温泉がぐるっと設置されてるじゃないの!」
サツキが案内図を見てみると、確かに円の中心に炊事場と野営地と思われる絵が描かれており、その周りをぐるっと例のあの温泉マークが描かれている。幾つあるんだろう。男湯、女湯、貸切風呂、打たせ湯(混浴)、あ、水風呂もある。混浴の大きな露天風呂もある様だ。
「混浴って、何か着て入っていいのかな?」
「まあねー、男はその辺適当だけど、女性は結構困るのよ。だから私、一応水着を持ってきたわよ」
「え? 水着?」
成程、海外の温泉などは水着着用オッケーの所が多いと聞くが、ノリ的にはそちらの色の方が濃いのかもしれない。
「私、持ってきてない……」
「変身する時に想像すればいいんだよ」
ユラが教えてくれた。
「でもまあサツキって基本裸だもんな」
「ちょっとユラ、なによ裸って」
「ほら、サツキがイルミナとかで変身する時って、着てた服そのままだろ? 服まで想像出来てりゃあ服ごと一緒に変身出来る筈なんだけど、サツキはどうもそれが苦手みたいでな」
するとウルスラが首を傾げた。
「さっきラムがユラになった時は服を着てたじゃないの」
「ありゃあサツキの中での俺があの法衣着た姿なんだろ」
「私がサツキの知り合いになった時は最初にリアムの服を着てから変身したわよ?」
「じゃあ裸にされたな、それ」
「え……サツキ、あの男の人と一体何が」
サツキは大慌てで否定した。
「何もない何もないってば! 裸なんて見たことないもん!」
すると、ユラがぽん、と手を叩いた。
「分かった。リアムの服を着たそいつを想像したんだな、きっと。だから変わってない様に見えたんだ」
「あ、成程」
よく分からないが、多分そんなとこなんだろう。とりあえず山岸祐介の裸は見たことは絶対にないのだから。
「だから、一旦ウルスラの水着を見せてやれば想像出来るんじゃね?」
「何か想像力乏しい子みたいだね、私……」
「ていうかお前の裸への拘りが異様に強いんだろうな」
「なに拘りって」
「胸とか?」
「……」
胸はサツキの最大のコンプレックスだ。だからこそ、そのことがどうしても脳裏から離れないのかもしれない。サツキが悶々としていると、そういえばアールと須藤さんがいない。と、野営地からアールの声が聞こえた。
「おーい! 凄いぞこれ! 早く来いよ!」
アールがログハウス調の家の前で大きく手を振っている。その横を、須藤さんがぴょんぴょん飛び跳ねていた。
「俺が前来た時はあんなのなかったぞ」
ユラがログハウスを見て言った。ウルスラが案内図の隅に書いてある文章を読んだ。
「尚、こちらの施設は新たに設置された物です。後の方が気持ちよく使えるよう、ゴミはきちんと片付けていって下さい、だって」
何だかなあ。サツキは苦笑いするしかなかった。
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