第406話 OLサツキの上級編、フレイのダンジョンの須藤さんのレベル3

 アールに両肩を掴まれた状態で、それでもサツキは須藤さんのレベルアップが楽しみで楽しみで、わくわくして待った。ラムはまだ一度レベルアップしただけなので、数字で言えばレベル2。まさか須藤さんの方が先にレベル3になるとは思わなかったが、それだけこのパーティー内に、というかウルスラとユラの喧嘩が多いという証拠なのかもしれなかった。


 光が徐々に収まっていく。と、少し大きくなった須藤さんがそこに立っていた。アールが肩を離して須藤さんの前にしゃがみ込んだかと思うと、人差し指で須藤さんの頬を突いた。


「おっ! 固くなってるぞサツキ!」

「え!? 本当!?」


 サツキとラムも須藤さんの前にしゃがみ込んだ。一回り大きくなり、背の高さはサツキの腰位まで。


「あ、手が大きくなってる!」

「おっ! 足が生えてるぞ!」

「本当だ!」


 二人して須藤さんをひっくり返したりして他に変化がないか探す。すると、今度はラムが何かを見つけたようだ。口の中の様だ。アールがぐに、と両手で口を大きく開かせると、中には頑丈そうな犬歯が生えていた。


「鼻も少し伸びた様な?」

「ちょっと須藤さん、ドラゴンっぽくなってんじゃねえか?」

「確かに! もっとレベルアップしたらスライムドラゴンになったりして!?」

「おおー新種じゃねえかそれ!? 面白そうだな!」

「ちょっと頑張って育ててみようよ!」

「いいなそれ! 頑張ろうぜ、サツキ!」


 アールがまだ肩をがっと掴んで前後に振った。がくがくするからめてほしいが、どうも興奮するとこうなる様だ。


 そんな風にサツキとアールがきゃっきゃと盛り上がっていると、背後から冷めた声が降ってきた。


「須藤さんはアールの所有だろ。アールが育てりゃいいじゃねえか」


 ユラだった。先程状態異常回復機能付きヒールライトを浴びたというのに、最高に機嫌の悪い顔をしている。しかも何か背後から黒い物が立ち昇っているかの様な錯覚を覚える程、ユラが纏う空気は張り詰めていた。


「それにサツキにはラムがいるだろ? ラムも何須藤さんの保護者みたいな顔してんだよ」


 苛々の矛先が次はラムに向かってしまった。サツキがびっくりして固まっていると、それを見たアールがサツキの頭を撫でる。あ、ユラの後ろでウルスラがぴくっと反応した。やばいやばい、どこもかしこもやばい。


 すると、あまり場を読めないアールが言った。


「サツキが怖がってんじゃねーか。可哀想に」

「怖がっちゃいねえよ」

「何でユラに分かるんだよ」

「俺には分かるの」

「何だよそれ」

「とにかくそいつを離せよ」


 ユラが、サツキの頭の上に乗っているアールの手を指差した。そうか、ユラはアールがサツキにべたべたしてると思って、それでアールに焼きもちを妬いたに違いない。サツキは心得たとばかりにアールの手を頭から下ろすと、立ち上がってささっと離れた。


 すると、ユラがサツキの肩をぐいっと掴んで引っ張って行く。


「ほら行くぞ、さっさと先へ進もうぜ」


 いや、相手違くない? と思ったが、余計なことを言ってユラがまた機嫌を損ねると面倒だ。ウルスラも追い越しずんずん先へと進むユラが、小声でサツキに尋ねた。


「それ、イルミナ?」

「うん、そうだよ」

「じゃあすぐに戻るな」


 そう言って、ユラは安心した様に笑ったのだった。

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