第405話 魔術師リアムの上級編初日の祐介の腕枕
リアムは今、固まっていた。
風呂場では確かに互いに裸で後ろから抱きつかれた。遥か昔のことの様に思うが、あれはまだ今朝のことだ。あの時以降、祐介の触れる距離が明らかに縮まってきているのは確かだった。
いよいよ禁欲が抑えられなくなってきているのだろうか。だがしかし、祐介はリアムの正体を知っている男だ。やはりどう考えても、リアムの好意に応えることなど出来ないだろう。とすると、これは身体目的なのだろうか。いやしかし、祐介がただの身体目的でリアムに触れるなど鬼畜な所業に及ぶであろうか。祐介は優しい人間だ。それは考えにくかった。
この下腹部にぴったりと張り付いている祐介の手のひらは、正直温かくて腹痛には効果がありそうなのだが、これは許されるものであろうか。
仕方ない、少し確認をした方がよさそうだ。
「祐介」
「うん?」
耳元で響く声は低く聞き心地がよく、耳の後ろがぞわぞわする。リアムは相当重症らしい。
「祐介は、恋人は作らないのか?」
「どうしたの急に」
はっきり言うべきであろうか。言ってしまえ、言うんだリアム!
「今朝程から接触が増えている気がしているので、そろそろ禁欲生活に限界が近付いているのかと思ったのだ」
「禁欲生活……」
「この身体はサツキではあるが、中身は私であろう? それですらいいと思えてしまう程飢えさせてしまっているのは、私が四六時中祐介と共にあるからなのではないかと危惧した」
「飢え……飢えてる様に見える?」
「飢えてはいないのか?」
「……また答えにくい質問を……」
祐介がぼそぼそと言った。
「特に祐介はまだ若い。突発的な欲情が抑えきれなくある時もあろう」
「人を野獣みたいに言わないで」
「だが、以前にもう三度目はないと言っていたではないか。つまりたとえ相手が誰であろうがそういう気分になってしまう程度には我慢を強いているのだろう?」
「人をやりたいだけの人みたいに言わないでくれる?」
「私は祐介にひたすら寄りかかり甘えているだけの状態だ。それが祐介に禁欲を強いているのだから、申し訳ないとは思っている。だから恋人をだな」
「僕の今の恋人はサツキちゃんでしょ?」
祐介が、リアムの言葉を遮って言った。今、なんと言われた? 祐介とリアムの関係は、付き合っているふりだった筈だが。
だから祐介は、今までさも恋人かの様な態度をリアムに対し取り続けていたのか?
「そう……だったのか?」
「少なくとも、僕はそういうつもりで接してるよ」
「お、驚いた。つもりか」
「でもまあ、サツキちゃんを差し置いて恋人を作る気はないし」
「そこは作らないと問題になるのではないか?」
「何が問題なの」
「禁欲がだな」
「禁欲はもういいよ、置いておいてよ」
「だがしかし」
すると、祐介が更に身体を密着させて、リアムを抱きすくめた。
「僕は今、サツキちゃんとこうして触れ合って、美味しいもの食べて、映画観たり旅行したり一緒に通勤したりするのが幸せなの。だから別に飢えてるとか禁欲だとか気にしないで欲しいな」
気にするなと言われても。
リアムはサツキではないから、素直にうんと言える筈もなく。
「……考えておく」
「ん」
それしか言えなかった。
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