第378話 OLサツキの上級編、ギルドで集合

 ユラは花の様だと思う。


 ウルスラがひまわりの様な大輪だったとすると、ユラは凛とした一輪の花だ。白く真っ直ぐ伸びた花びらが、太陽の光を反射して金色に輝く。近づくと捕らえて離さない罠が仕掛けられた、危険な花だ。


 そしてサツキは、それに心を奪われた獲物だ。


 好きだという気持ちを自覚してから、どんどん歯止めが効かなくなってきている自分がいた。ユラと一緒にいたい、他愛もない話をして笑い合っていたい、寝顔も、美味しそうに食事をしている笑顔も、サツキにキスを迫る時のあの艶っぽい表情も、全部独り占め出来たらいいのに、と願ってしまう。


 ユラがはっきりと教えてくれればいいのに、と思う。好きな人のことを聞いてもはぐらかされるし、追加能力の件についてものらりくらりと躱すだけだ。


 でも、サツキに自信がついたら教えてくれると言っていた。自信は、一体どうやったら付くんだろうか。ユラのことをもっと知りたかった。聞きたくないことでも、はっきりしたかった。


 だから、自信が欲しい。初めて、心から願った。


 ユラから口を離すと、ユラがはあ、と何とも色っぽい息を吐いた。サツキを見上げる水色の瞳はじっと真っ直ぐこちらを覗き込んでいる。ユラの目は、何だか安心する。ちゃんとサツキを見てくれている様に感じるからだ。その代わりサツキがちょっと変なことを考えるとそれすらも見破ってしまうが。


 今この瞬間だけは、この人の目には自分だけが映っている。それが嬉しかった。


「嬉しいか?」

「だからね、そういうの聞くのめようよ」

「言っただろ、自信は羞恥から脱却することにより付くって」

「出た、謎理論」

「結構真理に近いと思うんだけどな―」


 ユラがそう言って笑う。


「あ、さっきの答え。きちんと婚姻の契約をした奴は重婚禁止だ。でないとばれる」

「ばれる?」

「教会で婚姻契約を取り交わすと、互いの腕に印が付く。浮気すると、程度によって色が変わる」

「なかなか怖い契約だね」

「まあ身体の浮気をしなけりゃ大丈夫だ」


 サツキはコメントしづらくなり、黙った。代わりに言った。


「じゃ、まあ行こっか」

「そうだな。あー! ダンジョンでも機会見つけたら絶対キスしてやる!」

「……」

「そこ黙るなよ」


 ユラが不貞腐れた顔を作ってみせたが、目が笑っている。ああ、好きだな、サツキはそう思った。この人の隣に、ずっとこうしていられたらいいのに。ラムと手を繋ぎながら、そう、強烈に思った。


 ギルドが見えてくる。すると、丁度ウルスラとアールがギルドに入るところが見えた。こちらには気付かなかったのだろう、すぐに姿は消えてしまった。


 ユラが不思議そうに尋ねた。


「あいつら、今日も一緒にいたのかな?」


 やはりユラはアールの動向は気になるらしい。


「途中で会ったんじゃない?」

「まあ別にどっちでもいいけど」


 けらけらと笑いながら言うユラを横目でちらりと見た。


 嘘ばっかり。


 心の中で、そう呟いた。

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