第377話 魔術師リアムの上級編初日、いざ温泉卵に向けて
祐介は暫くの間、リアムの胸に実に気持ちよさそうに顔を押し付けていた。当然の如くノーブラである。
「祐介、離れろ」
「確かめてるから、もうちょっと」
「何を確かめているのだ」
「ちゃんとここにいるってこと」
リアムの肩の力が抜けた。今朝、何も言わず風呂に入ったのが余程響いたとみえる。リアムは祐介の髪を優しく撫で付けると、安心させる様に言った。
「私は勝手には消えん。これからはもう少し私も気を付けよう。祐介が羽田に関して私の心配をしているのはよく分かったから」
「……それ以外にも、前もあった」
「え?」
寝起きだからか、祐介がまるで駄々っ子の様だ。リアムは、祐介の頭に頬を付けた。愛おしくて仕方がない。
「寝てる時に、消えそうな気がした時が、あった」
「――ああ、祐介が先に寝てしまった時か」
豚の男の映画を見た日だ。師と過ごした家の寝室の星空を思い出していると、寝ていた祐介に消えるなと言われた。翌朝になっても、鳥肌を立てて何処にも行くなと縋りつかれた。
その程度には、リアムは祐介に必要とされているのだろうか。だとしたら、嬉しかった。あの時はまだ祐介への恋心を認識してはいなかったが、今あんなことを言われたら。
「それだけじゃない。サツキちゃんは、勝手に色々考えて勝手に決めるから、怖い」
うむ。否めない。パーティーを組んでいる時も、説明が足りないと言われた経験が過去に山の様にあった。考察は魔術師の基本ではあるが、それを口に出すのはあまり得意ではないのは確かだ。
「祐介は、私のことをよく分かっている」
「またそうやって、怖いことを言う」
「怖い? 何がだ」
「僕の知らないところで、勝手に考えて決めるって言ってる様なものでしょ」
そうかもしれない。今も、いずれ祐介から離れようと考えているのだから。
でも今はまだ話す時ではない。
「何かやる時は、ちゃんと話す」
「……うん」
納得してくれただろうか。
「よし、大浴場に行くぞ、祐介!」
「うん」
「ほら離せ」
「……うん」
祐介が、名残惜しそうに離れていった。リアムは努めて明るく言った。
「温泉卵が楽しみだな」
「うん、そうだね」
祐介の顔に笑みが戻った。やれやれだ。
二人は支度をすると、大浴場へと向かうことにした。もうこの後は朝食、その後は出発だ。
「もう着替えも持っていくといいよ」
「また化粧をするのか……」
「じゃあ僕がしてあげようか?」
「出来るのか?」
「僕器用だし、きっと」
「では頼もう」
「へへ、ちょっとやってみたかったんだよね」
祐介の楽しそうな顔が、一瞬郁姉のそれと被った。
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