第264話 OLサツキの中級編三日目の夕飯

 ユラは手際良くアルゴ蜥蜴の肉入り野菜煮込みを皿に盛りつけた。見た目はポトフである。


 少し前のサツキなら、蜥蜴を食べるなんてとんでもない、と拒否をしてしまっていたかもしれないが、あのダンジョンという特殊な雰囲気の中で初めて食べたからだろうか、殆ど抵抗なく食べることが出来た。


 一度食べてしまえば、あとはこの旨さに肉の前身が何だったかなどもう関係なくなった。


 食事は取らないラムも一人は寂しいのか、食卓の椅子に座るとにこにこしながら足をぷらぷらさせている。


 ユラがもう一度酒を二人のグラスに注ぐと言った。


「じゃあ食おうぜ」

「うん! いただきます!」


 まずはひと口。うおお、美味しい! 塩味の中に甘みのある出汁が滲み出て、堪らなく美味しい。


 サツキはあまりの美味しさに幸せいっぱいになり、思わず笑みを浮かべてしまった。するとそんなサツキの様子を眺めていたユラが苦笑する。


「お前って本当分かり易いよな」


 それは単純だという意味ではなかろうか。


 サツキは反論した。


「そんなことないよ。私だって色々考えてるんだから」


 言いながらパンを千切って口に放り込む。うーん、美味。


「よく言うよ。今だってパンが美味いって喜んでるじゃねえか」

「心読まないでくれる?」


 そんなに顔に出ているだろうか。リアムの渋いイケメン顔でそんなに分かり易い顔をしてしまったら、イメージが崩れてしまうかもしれない。少し渋そうな顔をしてみようか。


「今度は百面相やってるしさ」


 ユラが可笑しそうにケラケラと笑う。ここに来てからのユラはご機嫌だ。変なことをすることもなく、まあスライム風呂には入ってたけど、にこやかだしこのユラなら好きだ。


 サツキの視線に気付いたのか、傾けていたグラスが止まった。


「なに」

「いや、ご機嫌だなと思って」

「そりゃ当然だろ。マグノリアの家だぞ? 俺が長年憧れ続けた人の家にいられる、もうそれだけで飯が食えるもんな」

「あはは、本当にマグノリアが好きなんだねえ」

「だってさ」


 真面目な顔に戻ると、ユラは身を乗り出してきた。これから語るぞ感が半端ない。


「あの人発想が独特だろ?」

「確かに」


 サツキは即答した。独特というか紙一重というか子供っぽいというか。


「実験なんて口実じゃないかってこともバンバンやってたしさ、凄えなこの人って思ったんだよ」

「ある意味凄いよね、あの思い切りの良さ」

「だろー? 本当リアムが羨ましかったなあ」


 くい、と酒を飲み干すと、ユラが少し悔しそうに言った。


「一緒のパーティーになったから、色々と聞いてやろうと思ったんだけどな。リアムにあれこれ聞くと、答えてくれるんだけどその後すっごい寂しそうな顔をするから、段々聞き辛くなっちゃってさ」

「淋しそう?」


 ユラが頷いた。


「リアムは親に半ば捨てられたみたいなもんでさ、家族はマグノリアだけだったんだよ。そのマグノリアも死んじゃって、この家は思い出だらけだろうし。だから聞くのを止めた」


 そう言うユラも、寂しそうだった。

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