第263話 魔術師リアムの中級編四日目の飲み会へ移動
就業時間終了のチャイムが鳴ると、普段は残っている社員達も今日は即座にパソコンの電源を落として準備万端である。
「じゃあ行きますか!」
佐川がツンツン頭を気にしながら皆に言った。田端が尋ねる。
「四階の人達にはバレてない?」
佐川が親指を突き出した。
「今日は三階メンバープラス社長ってことで通ってるので、早川さんも田辺さんも納得済みです!」
「お前こういう知恵は働くよな」
「田辺さん酷いなー」
この階の営業達は基本仲は悪くない様だ。だから、羽田があの独善的な態度を取る所為で、階全部の雰囲気が悪くなっていると言える。
「祐介、社長はこの階に様子を見に来たりはしないのか?」
「ちっとも」
ぞろぞろと歩道を並んで歩く社員達。先頭は幹事となった佐川に田辺。その後を山口と橋本と松田が続き、その後ろをゆったりと潮崎と木佐ちゃんが仲睦まじそうに歩いている。祐介とリアムは最後尾だ。
すると、祐介がそっと手を繋いできた。リアムが驚いて祐介を見ると、祐介が口に人差し指を当てて「しーっ」と言った。目元が悪戯をする子供の様に笑いを隠せないでいる。
「……羽田はいないぞ?」
「分かってるよ」
「会社ではしないのではなかったか?」
「会社じゃないでしょ」
屁理屈を言っているのは自分でも分かっているのだろう。祐介が我慢出来ずに口元も緩ませた。
「あは、ごめんごめん。ただ並んで歩くのがすっごい変な感じしちゃってさ。手持ち無沙汰というか、落ち着かなくて」
「まあ基本ずっと祐介が守ってくれているからな」
祐介の守りは徹底している。これまで外で手を離したことは、ちょっと物を持つとか袋に物を詰めるとかその程度の時しかなかった。
「だからこれは僕の我儘だけど、落ち着くから店に着くまで、いいかな?」
祐介の我儘など珍しい。だがまあ苛々されるよりは落ち着いてもらった方がいいに決まっている。リアムは頷いた。正直リアムも慣れ過ぎてしまい、違和感があったのは否めない。
なので、そのまま伝えた。
「私も変な感じがしていたからな。問題はない」
「やった」
祐介は嬉しそうにそう言うと、実に楽しげに繋いだ手を振り始めた。思わずリアムが苦笑する。
「祐介は時折凄く子供っぽくなる時があるな」
「え? 駄目かな?」
少し不安そうに尋ねる祐介。勿論駄目な訳はない。
「いや。私が祐介を頼る様に、祐介にも思う存分私を頼ってもらいたいぞ。だから安心して我儘を言うといい」
リアムがそう言うと、祐介は照れた様な表情でボソッと聞いた。
「何か今日のサツキちゃん、優しくない?」
「いつもは優しくない様な言い方ではないか」
「いつもも優しいけどさ、そうじゃなくて」
ではどんなだろうか。
祐介が言葉を続けようと口を開いたその時。
「こちらのお店でーす!」
佐川が一行を振り返った。祐介はその瞬間、手をぱっと離したのだった。
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