第192話 OLサツキの中級編二日目、春祭りへ出発
ユラのその言葉で、ユラは分かっていて何も言わなかったことが分かった。これは明らかにサツキが悪い。助けてもらって礼の一つも言えないなんて。しかも仲間なのに。
「ごめんなさい、その、色々びっくりしちゃって、お礼遅くなっちゃった」
「ん、まあいいよ。いいもの見れたし」
サツキがすっと杖を向けると、ユラが慌てて謝った。
「悪い、言い過ぎた。まあでもあれだ、サツキはもうちょい自信を持て、な? 堂々としてると変なのは寄ってこないぞ」
「リアムの姿に戻れば平気だもん」
「でもさ、そっちの方がしっくりくるだろ?」
「……」
それはそうだろう。この身体で二十四年間過ごしてきたのだから。でも、これはもう偽りの姿だ。これからは男として生きていくのだから、今後はもう変身はなるべく――
「男とかさ、女とかさ、関係なくない? サツキはサツキだろ」
ユラがサツキを見て、言った。
「折角魔術師なんだしさ、イルミナやメタモラ使えるって特権だぜ? 好きな時に好きな方になっとけばいいと、俺は思うけど」
「で、でも……そんなので、いいの?」
ユラが微笑んだ。
「いいも悪いも、それが今のサツキだろ。どっちかに無理に決めなくたっていいんじゃね?」
「ユラ……」
それは、考えてもいなかった可能性だった。でも、同性である男のアールを好きなユラだからこそ、出てきた言葉なのかもしれない。きっと、ユラも悩んで悩んで、それでその答えに辿り着いたのなら、参考にしてみる価値はあるのかもしれなかった。
「……うん! いい考えかもしれない!」
「お、前向きになった」
「だって、いきなり男になったんだよ? びっくりもするよ」
「そりゃまあそうだな――あ、サツキ」
「うん?」
ユラがサツキの背中を覗いてきた。
「ボタンずれてる」
「え、やっぱり?」
「直していいなら直すけど」
どうする? と首を傾げるユラ。そうだ、この人はいつもこうだったじゃないか。ちゃんと聞いてきてくれる。怒っている時はあれだったけど。
もっと信用しよう。きっとユラは、信用に値する人だ。余計な一言が多いのが玉に瑕だけど。
サツキは笑顔で頷いた。
「お願いします。自分だと難しくって」
「リボンも曲がってるぞ。両方直すからな」
「うん」
ボタンを直す手も、以前だったら触れられるだけで恐怖だったが、今はもう怖くはない。なんだ、もしかしたらこれまでも怖くない人はいっぱいいたのかもしれない。サツキが無闇やたらに怖がって、全然見なかっただけで。
「よし、出来上がり」
ポン、とお尻を叩くのは止めて欲しかったが、あまり深い意味はないのかもしれない。意識されていないと思えば、こうも気軽に隣にいられるものなんだ。
「じゃあ行こうか。あ、サツキ」
「うん?」
「もしかしたら昨日の奴がまだ彷徨いている可能性もあるから、杖は握っておけ」
「うん。あ、ラムも狙われてた」
「うーん、そうしたら、俺がラムを抱っこしておく。サツキは俺の腕に手を掛けて、離れない様に」
「え」
「見えにくい魔法を掛けておくから」
そういうことか。
「アン・ビンデル!」
ユラが呪文を唱えると、半透明の薄い膜が三人を包んだ。
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