第191話 魔術師リアムの中級編二日目の噂話
久住社長と早川ユメが向かったのはビルの四階だ。四階に社長室、経理、人事総務秘書の部屋と会議室があるらしい。経理は社長夫人が担当しているが、毎日くる訳ではなく、日頃は派遣の女性が雑務を行なっているそうだ。この派遣女性の顔は分からなかったので、後でこっそり見に行こう、と祐介が言ってくれた。
そして始業前の珈琲タイムに、ヒソヒソと話す女性二人。リアムと木佐ちゃんである。リアムが素直に木佐ちゃんに四階の人間について尋ねたところ、思ってもみない程の詳しい情報が返ってきたのだ。さすがはお局様である。ちなみにお局様の意味は未だによく分かっていないが、絶対本人に言わないでと祐介に言い渡されている。
「つまり、四階は社長夫人の麗子さんがいない日は、実質早川ユメの天下ってことよ」
「成程……派遣女性の方はさぞ肩身が狭かろう」
「田辺さんね。もう我関せずって感じで仕事をバリバリこなすベテランさんよ。旦那さんを早くに亡くされて、女手一つでお子さんを育てているそうよ。もうすぐ高校生とか言ってたかな」
「何と、偉いものだ」
「まあだから四階は余程用がある時以外は皆行かないから。野原さんは特に一人では行かない様に」
「何故そこまで目をつけられているのだ……」
「まあ、その、胸と、逆らわなさそうな雰囲気?」
「……どいつもこいつも……」
チッと舌打ちすると、小声で説明してくれていた木佐ちゃんが向かいの祐介を見て、言った。
「何か、本当に人が変わったみたいね」
「何かを吹っ切ったみたいです」
祐介が淀みなく即答した。さすがだ祐介。
「でもこの会社の資本金は、お嬢様の麗子さんが出資してるのよ。だから久住社長って麗子さんには頭が上がらない、でも年上女房よりも若い秘書が最近はお好みの様で、今日は絶対麗子さんが来ないって日には社長室に鍵かけて一体何やってんだか」
「何をやっているのだ?」
「知りたい様な、知りたくない様な」
木佐ちゃんが微妙な笑みを返した。成程、世の中知らなくてもいいことはある様だ。
「総務って言っても殆ど外部委託してるし、人事っていっても新人殆ど取らないしそもそも縁故ばっかだし、まあほぼ秘書業務ね。ちゃんとそれもやってんだか分からないけど」
「それで給金を貰えるのか? まあ身体を差し出すという意味では対価は必要なのか」
「サツキちゃん、言い方直接的だから」
祐介が口を挟んだ。リアムはふむふむと頷く。
「成程な、大体把握した」
「人の話聞いてる?」
「聞いているぞ。つまりは社長と早川ユメと麗子さんなる方にその事実を伝えると、修羅場が待ち構えているということだろう?」
「その通りです。て、やらないでね。職失いたくないし」
「人の恋路は放っておけばいいのよ。馬に蹴られて死んじゃうわよ」
「なんと」
「サツキちゃん、ことわざね。メールで送ってあげるから見て」
祐介がそう言った後、暫くすると祐介からメールが届いた。そこにはことわざの説明と、
『昨日、手紙貰ってない』
という一文が書かれていた。
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