第164話 OLサツキの中級編初日、春祭りの準備
春祭りが終わった次の日の午前中にまたギルドで落ち合おう、と約束し、一同はその場で解散した。
ウルスラには変な女に引っかかるな、アールには変な男に引っかかるなと言われたが、笑って誤魔化した。
「ねえラムちゃん、私もドレス着るにしても、あそこで変身する訳にもいかないし、メタモラって途中で解除出来ないんだって。やっぱりそうなると行き帰りの女物の下着と服がないとだけど、リアムの姿で買うのもあれだろうし……ラムちゃん、付き合ってくれないかな?」
ラムはこくこくと頷いてくれた。ラムの下着を買うついでにサツキのも混ぜてしまえば、そこまで目立たないだろう。
「でもあの顔のままじゃ、アールは家族と彷徨いてるみたいだし会ったら嫌だなあ……」
すると、店先で目元だけを覆う仮面を選んでいる一行がいるのが目に入った。
「これでソバカスを隠しつつジャンに近寄ってみるわ!」
「私も幼馴染みのショーンにこれで別人のふりして、うふふふ」
成程。目元だけでも隠せれば、印象も大分変わるに違いない。それにしても何だか楽しそうで、少し羨ましかった。本当はウルスラとああやって……と思ったが、手を繋ぐラムは喋れはしないが嬉しそうにしている。それで十分じゃないかと思った。これまで友人と心から言える者など皆無だったサツキにとって、これはもうすでに奇跡に近いことなのだから。
サツキは店頭に並ぶ仮面を二つ選び購入すると、その並びにあった下着屋にささっと入って用を済ました。別の店でワンピースも数着適当に購入したので、とりあえず一旦家に戻った。
ラムは食事をとらない。なので、サツキは一人で買ってきたパンの様な物を食べて支度をしてから、初めての呪文を口にした。少し怖いが、きっと一生の思い出になる! そう思った。
そして、過去の自分が味わえなかった喜びを感じ取り、その後悔を上書きしたかった。そうやっていく内に、ようやく新たに男として生きていける、そんな気がしたから。
「いくわよラムちゃん。『メタモラ! 野原サツキ!』」
すると、イルミナの時には感じなかった、何かが急に減っていく感覚がサツキを襲った。
「な、何今の……」
それは、サツキ本来の声だった。もうあのぐわっと持っていかれる感覚はなくなっていたが、足りない気がする。
「あ、もしかして魔力が減った感覚が、これかな?」
慣れると分かるとユラが言っていたあれだ。
今唱えたメタモラは上級魔法だ。昨日は中級のイルミナ、上級のミティアとディープ・インパクト、何とかハンマーは中級だろうか? あとバリアーラは初級、それで上級を唱えられない位の残量になった。
中級が上級何回分かはわからないが、大体上級を三、四回唱えると魔力がなくなる位かもしれない。思ったよりも少ない様だ。
ラムがサツキの服の裾を引っ張った。早く早く、と言いたい様だ。
「あ、すぐ着替えるね!」
サツキは急ぎ女物の服に着替え始めるのだった。
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