第161話 魔術師リアムの中級編初日出社後

 会社の受付の鍵を祐介が開けて入ると、そこには先程のカフェの様な雰囲気の室内が広がっていた。違いは、各々の机の上にパソコンが置いてあることか。


「僕の席はここ」


 祐介が入り口から入って右側の席の一つに鞄を置いた。


「で、サツキちゃんの席がここ」


 祐介が向かい合いになっている机の入り口から見て手前側、祐介の席からは斜め向かいの席にリアムを呼ぶと、座らせた。


「パソコンの立ち上げはここ。パスワードって書いてあるのが暗証番号のこと」

「よし、『キリ・リース』!」


 すると、ブォン、とアルファベットと数字の羅列が浮かび上がる。


「Idollover329……まさかこれ、アイドルラバーサツキ……」

「どういうことだ?」

「うん、僕には難易度が高過ぎるからまた今度。先を急ごう」

「あ、ああ」


 よく分からないが、ここは祐介の指示に従うべきだろう。祐介に打つ場所を教わりながら入力していく。


「で、メールの立ち上げがここで」


 指を差された所にカーソルなるものを移動しようとするが、上手くいかない。


「動かし方はこう」


 マウスを掴むリアムの手の上から祐介がマウスを握り誘導する。おお、動いた。


「ダブルクリック、えーと二回ぽちぽちっとやる」


 メールソフトなるものが開くと、太く強調されたものがブワッと流れて行った。


「……えげつない量のメールだなあ。心配」


 祐介はそう言うと、またリアムを後ろから抱き締めた。落ち着け祐介。何だか昨日からやたらと多くはないか? なのでリアムは言った。


「落ち着け祐介」

「落ち着く為にやってます」

「祐介、会社では駄目なのではなかったのか」

「まだ誰もいないし」


 とりつく島もない。


「ねえ、お昼ご飯一緒に行こうね」

「無論だ、私にはまだ何もよく分からぬ」

「困ったらすぐ探して」

「分かっている、私が頼れるのは祐介しかいないのだから」

「……くおお……あ。呼び方だけ。僕先輩だからさ、一応さ」


 祐介が何か言いかけたその時。ガタタ!! と物凄い音が入り口の方からした。リアムがそちらを見ると、驚愕の表情でこちらを見ているあの顔は。


「木佐ちゃん殿?」

「やっぱりその呼び方でいくのね」

「どうもしっくりきていてな」


 祐介がようやくリアムを解放する。しかし両手は肩に乗せられたままだ。


「え? え? 何あんた達、いつの間に、え?」


 混乱の表情でこちらを見ている木佐ちゃんは、リアム的に見ればそこそこの美人である。少しくたびれた様な雰囲気はあるが、キリッとしてスッキリとした顔である。


 祐介がにっこりと笑った。


「木佐さん、おはようございます」

「お、おはよう……え? 今の何? 幻?」

「あはは、幻って。僕達付き合ってるんですよ。やだなあ見られちゃった、ねえサツキちゃん?」


 抱きついてきたのは祐介だが、とりあえずリアムはこくこくと頷いた。


 祐介が続けた。


「サツキちゃんはちょっと待ってて。僕、木佐さんと話があるんだ」


 恐ろしい圧の笑顔を振り撒き、祐介が言い放った。

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