第127話 魔術師リアム、初級編三日目午後開始

 回転寿司は楽しかった。何故食べ物がわざわざ回って来るのかは謎だったが、頼まずとも届けられ、且つ実際に物を見て選べるのはいい。祐介も楽しそうだった。魚の種類を言われたところで何のことやらだったが、千里の道も一歩からだ。これから学んでいけばいいのである。


「あのワサビという代物には驚いた」

「だからつけ過ぎだって言ったでしょ」


 祐介に苦笑いをされたが、素直に従わなかったのはリアムである。何も言えず、誤魔化し笑いをするしかなかった。


 合鍵も受け取り、リアムはキーケース、祐介はキーホルダーなるものに付け、これで完了だ。


「合鍵を人に渡したの、初めてだよ」


 にこにこと祐介が述べた。


「これまで恋人はいなかったのか?」


 それは意外だ。散々もてている様なことを言っていた割にいないのなら、何かどこかに障りがあるのだろうか。


「気になる?」

「話の流れだ」

「……冷たいんだから……」

「何だ」

「何でもありません」

「で?」

「いた様な、いない様な」

「何だそのふわっとした表現は」


 祐介を見上げると、ちら、と目が合った。そしてすぐ逸らされた。


「ぐいぐい来られるの、苦手でさ。いいな、と思っても、すぐに大体皆大胆になっていくというか。大人しそうだなと思ってた子がさ、家に押しかけてきていきなり服脱いで飛びついてきたらどう思う?」

「驚く」


 素直な感想を述べた。祐介がうんうん頷く。


「でしょ? まあ人肌恋しい時はそれも素直にいただくけど、面倒臭そうなタイプの子だと思ったら手を出さずに返すよ。でもそれすらも面倒でさ」

「祐介もあれか、ストーカーに狙われ易いのだな」


 リアムが言うと、はは、と祐介が乾いた笑いを見せた。家はもうすぐそこだ。


「僕、姉が二人いるからか女の人達といても違和感なくてさ、でもよく話していると勘違いされることがあるみたいで」

「もてる者は辛いな」


 リアムだったら間違いなく逃げるやつだ。あの女性のキャッキャとした雰囲気はどうも落ち着かない。そもそも女性との会話に自然に混ざれた試しはない。


「はは。他の奴らに言ったら殴られそうだけどね。それに追いかけられるより追いかけたいもんなあ」

「成程、袋の鼠にしてから絡め取るのが好みなのだな」

「言い方ってあるよね」


 そんな会話をしつつ、家に着いたので互いの合鍵で開けられるかを確認し、それぞれの家に戻った。姉が到着したら呼んでくれるらしい。


「よし!」


 リアムはその間、今日はカタカナの練習だ。今日は手紙に何を書こうか。それを考えるのは、少し楽しかった。

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