第125話 魔術師リアム、初級編三日目の昼

 パソコンなる物の使い方は非常に難しいものだった。


 まあ使っている内に慣れると言われ、立ち上げ方、マウスの使い方、ファイルエクスプローラーなる入れ物とソフトのざっとした説明、メール機能に電源の落とし方について説明されたが、要は携帯電話の様な物なのだと理解した。物事の分類も魔術師に必要な要素の一つである。きっと出来る、出来る筈だリアム!


 リアムは自らを鼓舞した。鼓舞位しか出来なかったという事実からは、とりあえず目を背けることにした。


 ふう、と息を吐くと、祐介が水をぐびっと飲む。祐介は今日もずっと喋りっぱなしだ。


「祐介、疲れただろう。そろそろ休憩しよう」

「少し早いけど、合鍵も作るならお昼に出ようか」

「では支度をして……」


 玄関に向かおうとして、祐介がパッと手首を掴んだ。


「また忘れてる」

「……済まぬ、つい」


 あれから羽田は来ていないが、いつ何時なんどきふらっと来るかは本人次第だ。


 二人は急ぎ支度をすると、駅前へと向かう。祐介は今日も手を繋いでくる。


「祐介、私はもう走ってどこかへ行ってしまったりしないぞ?」

「信用出来ない」

「見たところ羽田もいなそうだが」

「いるかもしれないし」


 祐介の読めないこの表情。真顔でじっと見つめられると、むずむずして仕方がない。


「僕の心の平穏の為、手を繋がせて下さい」


 余程あのことが衝撃だったのだろうことは分かった。知り合いがあんな愚行に及ぶ場面に出くわしたのだ、しかも一向に悪びれることもない。何も分からぬリアムですら、ヒヤリとしたものを感じずにはいられなかった。とすれば、祐介の方が余計辛かっただろう。


「分かった、もう言わぬ」

「ありがとう」


 横の祐介を盗み見ると、一瞬だが口の端が緩んだ様に見えた。即座に消えたが。


 祐介も、まだまだよく分からない。


 リアムが考えを放棄しようかどうか悩んでいる内に、鍵の絵が描かれた店に着いた。


「同じ様な形だから、この色付きなんていいんじゃない?」


 鍵のサンプルを指差しながら、祐介が提案する。祐介が選んだサツキの家の鍵はピンク色、祐介の家の鍵は青だった。祐介は随分と可愛らしい色を選んだ物だ。


 すると、リアムの視線に気が付いたのか、ふふ、と笑うと言った。


「虫除け」

「それはもてる自慢か、祐介」


 さすがにリアムとて祐介の意図することは分かった。こんな可愛らしい物を付けていたら、相手がいると思われるのは確実だ。そういうことなのだろう。


「言ったでしょ、もてるのは一人からだけでいいって」

「ふん、自慢だな」

「仕方ないでしょ、寄ってくるんだから」

「言ってろ」


 後程取りに来ることになり、二人は店を出た。


「あ、今日は回転寿司に行こう!」

「回転……寿司?」

「きっと気に入るよ、さ、行こ行こ!」


 祐介に促されるまま、リアムは回転寿司なる場所へと向かうことになった。

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