第94話 OLサツキ、初級編二日目昼食は蜥蜴

 どうもこのパーティーでは調理担当はユラの様だ。またあの無垢な魂となりてとか何とかをぶつぶつ言うと、遠慮なくアルバ蜥蜴の腹をかっさばいた。腹の部分は柔らかいらしく、あれだけ倒すのに苦労した蜥蜴はあっという間に美味しそうな肉になった。


 というか、僧侶なのに殺しまくってないか? 疑問に思えたが、だからといって代わりに調理担当にはなりたくない。さっきまで生きて動いていたモンスターを捌くなど、サツキにはまだハードルが高過ぎた。


 焚き火の周りを、蜥蜴の肉をぶっ刺した木の棒が囲む。淡白そうだと思っていたが、思ったよりも脂が落ちてきて香ばしい香りが漂う。


 アールはそれの焼き上がりを今か今かと待っていて、アイドル級の無邪気な笑顔はひたすらに可愛い。この人は、悪い人ではないのだろう。それは分かった。今朝、ユラから庇ってくれたことからも分かる。


 アールの隣のウルスラも、ひたすらに肉を見つめている。こちらは非常に真剣な眼差しだ。萌葱色の瞳にチラチラと反射する焚き火の火が、綺麗だった。


 この先リアムとして生きていく、それは先程宣言した。男として見てくれともお願いした。その気持ちに変わりはない。


 だが、サツキは男がどういうものなのかがいまいち分からない。これまで付き合ったこともないし、四六時中何だかいやらしい目で見られている気がしていたし、父は気弱で参考にならない。自分は一体どんな男になりたいのか。サツキは爆ぜる炎を眺めながら考えた。


 ユラみたいにはなりたくない。あそこまで徹底して身体にしか興味がないといっそ清々しくはあるが、サツキはそんな最低な男にはなりたくない。


 アールを盗み見る。肉を見つめて笑っている。どう考えても馬鹿そのものだが、だが悪い人ではない。


「アール」

「ん? どうした?」


 にこにことこちらを見るアールには、裏がなさそうだ。


「私ね、男の人が実はよく分からなくて、だからその……」


 何と伝えればいいのだろうか。


「男の人のこと、教えて!」

「ブフォッ!」


 横にいたユラが吹いた。何で吹いたんだろう。咳き込み始めたので、サツキは仕方なく背中を叩いてやった。


「大丈夫?」

「リアムの方こそ大丈夫か?」


 聞き返された。


「どういうこと?」


 ユラの顔が思い切り歪んでいた。


「男の人のこと教えてって、どんな口説き文句だよ」

「え? 私は別にアールを口説いてなんかないよ。さっき言ったでしょ? 私は男として生きるの!」

「だからってそれを、サツキが気になるアールに聞くか?」

「だってユラだとイマイチ不安が」

「はあー……」


 ユラが頭を抱えてしまった。よく分からない。助けを求めてウルスラを見ると、ぶすっと膨れている。何でだろう?


 アールを見ると、目をキラキラさせて頷いている。


「俺、教える! 男ってどんなものか、リアムにしっかりと教えてやる!」


 拳を握り締めて、アールが宣言した。

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