第95話 魔術師リアム、初級編二日目午後の買い出し

 スーパーは客でごった返している。


「やっぱり夕方は人が多いね」

「祐介、手を繋いだままだと通行の邪魔になるのではないか」

「ならない」


 笑顔で即答された。先程からちょいちょい年配の女性達に邪魔そうに見られている気がするのだが、これは気の所為ではないだろう。


「はい邪魔だよーどいてどいてー」


 カートを押す年配女性が、リアムの横を強引に通って行った。いや、今明らかに足の上をカートが乗っていかなかったか。見ると、祐介の横には十分なスペースが残されている。何故そちらを通らない!?


 年配女性がくるりと振り返った。


「山岸くん、彼女?」

「あ、こんにちは大塚さん。そうです彼女です。――あ、大塚さんはね、駅前のキオスクで働いている人だよ」

「いつの間にこんな虫が……」


 ボソリと呟きこちらを見た気がするが、多分気の所為ではない。


「確かに邪魔ですね、気を付けます」


 祐介がにっこりと笑うと、リアムの手を握ったまま祐介の背中側にぐいっと引っ張った。


「ではまた」

「う、うん、またね」


 祐介がぺこりと挨拶をすると、大塚さんと呼ばれた女性は逃げる様に立ち去った。祐介が背後のリアムを振り返ると、ぺろりと舌を出した。


「怒られちゃったね、ごめんねサツキちゃん」

「だから手を離せばいいだけだと思うのだが……」

「やだ」

「何故そんなに頑ななのだ」

「だってあいつがいるかもしれないじゃないか」

「あ……」


 リアムは反省した。そうか、祐介はずっとあの羽田を警戒していたのだ。すっかり忘れていた自分が情けない。


「ありがとう、祐介」

「うん」


 互いににっこりと笑い合い、買い物を続ける。すると、今後は横から声を掛けられた。どうなっているんだ、今日のスーパーは。


「や、山岸くん……野原さん?」


 遠慮がちな男の声。声がした方を見ると、陳列棚の通路の片隅に何だか存在感の薄い貧相な中年男性がこっちを見て笑っていた。


「会社の人」


 祐介はリアムの耳元で囁いた後、男にもにっこりといい笑顔をして見せた。


「潮崎さん、お買い物ですか」


 潮崎と呼ばれた男の手にはカゴがぶら下がっている。どう考えてもそうだろう。


「あー、うん、お惣菜買いに。あのさ」

「はい?」


 潮崎は、照れくさそうに尋ねてきた。


「山岸くんと野原さんて、付き合ってたんだね。昨日手を繋いでるのを見てあれ? て思ってたんだけど」

「あれ、見られてましたか」


 ははは、と祐介がわざとらしく笑う。潮崎は続けた。


「今朝さ、社宅で羽田さんが酔っ払って大騒ぎしてたじゃない? 僕あれで起きちゃってさ、警察にこっそり通報したんだよね。酔っぱらいが騒いでるって」

「あ、それで比較的すぐに居なくなったんですね。ありがとうございます、助かりました。僕達怖くて出れなくて。ね? サツキちゃん」


 圧が怖い。リアムはこくこくと無言で頷いた。

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