第87話 魔術師リアム、初級編二日目の特訓、難航する
今までは比較的スムーズだった特訓であるが、ここにきてリアムは完全に行き詰まっていた。
「くっ……この私が理解出来ないものなど……!」
握り締めているのはガラケーなる携帯電話である。この小さな物の中に複数の異なった作業を行なう機能が詰め込まれているそうだ。それだけでも驚きだが、一つ一体何役をこなしているのか。
「サツキちゃんサツキちゃん、とりあえず今のところは使い方だけ覚えて、何でそうなるかってとこまではまだ覚えなくていいよ」
「しかし! この電波というものにも種類があるとなると、一体何がどうなっているのか気になるではないか! 内部が一体どうなっているかの構造と仕組みもだな」
「うん、メーカーじゃないからいいって」
「めーかー?」
リアムが首を傾げる。祐介は苦笑いだ。
「作ってる会社のこと。サツキちゃんだってさ、その着ている服が材料がどこから来てどういう風にどこで作られたかまで調べてから着てないでしょ?」
「むう……言われてみればそうか。ただな、使いこなす上ではやはりある程度は」
「それはまた今度っつってんでしょ」
笑顔なのに圧が凄い。リアムは黙った。それを見て、祐介がふ、と笑った。
「一気に覚えなくても、気になるなら覚えることがなくなった時にじっくり研究したらいいよ」
「わ、分かった」
確かに今は使用方法を覚えるのが急務だ。内部構造まで調べ尽くしている余裕は今はない。
「メールと、あとは電話の使い方は教えるけど、サツキちゃん文章打てるのかな……」
祐介が考え込む。
「そうだ、何か本読んでみる? 駅前に小さいけど本屋があるから、どこまで読めるか試してみようよ」
「本か。魔導書なら山の様に読んできたぞ。文字が読めるのならば問題はないと思うのだが、ただこちらの世界の言葉で書くのは、正直自信がない」
読むのと書くのとはまた別だろう。
「そっか、ひらがな・カタカナ、漢字にアルファベットもあるもんな……まだまだ先は長いねえ」
「祐介……世話をかける」
「楽しいからいいって言ってんでしょ。あ、そうだ! そうしたらこうしよう!」
祐介が楽しそうに提案した。
「サツキちゃん、僕に毎日お手紙書いてよ。字の練習でさ」
手紙。リアムはこれまでも手紙を送る相手などいなかった。よって、手紙などろくに書いたことがない。
「な、何を書けばいいのだ?」
「サツキちゃんがその日思ったことでもいいし、僕に教えたいことでもいいし」
「手紙か……だがこれも特訓の一つだ、やろう!」
「はは、楽しみ」
祐介は何だか嬉しそうだ。リアムの特訓に付き合うのも、本当に言葉通り楽しんでくれているのかもしれない。
これは期待に応えなければ。
「じゃあ、午前中は携帯の説明して、銀行に行ってお金の引き出し方覚えつつお昼食べて、本屋行って、午後は字の練習……てとこかな? あ、DVD返さないと。あ、今夜あれ観ない? サツキちゃんって子が出てる映画があるんだけど」
にっこりと祐介が提案した。
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