第71話 魔術師リアムの初級編初日は終盤へ
昨日、祐介は胸が透けて見えるのは勘弁してほしい様なことを言っていた。若い健全な男子であれば至極当然であろう。だが、祐介から借りた分厚い素材の肌着は一枚のみ。借りてくるのをすっかり失念していたが、迎えに来るまでは聞く訳にもいかない。やったが最後、あの笑顔で怒られるのは目に見えていた。
「ふむ、どうすべきだろうか」
リアムは引き出しの中身をガサゴソと漁り、この際半分透けている肌着だろうが胸が透けなければいいだろうという結論に達し、なるべく濃い色ならいいだろう、とこれは明らかに寝間着であろう紺の上下セットを選んだ。長袖長ズボンではあるが、素材がサラサラしている為暑くはならないだろう。前合わせのボタンが付いており、V字になる首元は涼しそうだ。
さっさとシャワーを済まし、服を着て頭にタオルを巻いて待つ。しまった、化粧水と乳液を忘れていた。リアムは慌てて箪笥の上のそれらを塗った。どうも祐介がやった様な丁寧なやり方が出来ない。また明日にでも伝授してもらおう。
「サツキちゃん、終わった?」
「終わったぞ」
鍵だけ持ち、サンダルを履き扉を開けると、ほかほかの祐介が立っていた。
「パジャマ……」
「何かおかしかったか?」
「いえ、大変結構です。谷間……いえ何でもないです」
「おかしな奴だな。さ、早く早く」
リアムがさっさと鍵を閉めると、二人急ぎ祐介の家へと入る。リアムはベッドの前に座らされると、ベッドに座った祐介の膝に挟まれる様にしてドライヤーをかけてもらった。これは非常に気持ちのいいものだ。他人に頭を触られることなどなかなかないので、癖になりそうだった。
「熱くない?」
「気持ちいいぞ。ずっとやって欲しい位だ」
「じゃあ毎日やらせていただきます」
「いいのか?」
リアムが振り返ると、祐介が微笑んで言った。
「勿論。ほら前向いて」
「分かった!」
言ってみるものだ。何だかやたらと甘やかされている気がしないでもないが、
祐介がブラシで梳かし終えると、リアムをベッドの上のクッションが置いてある場所に手招きする。祐介のすぐ隣だ。膝の上に別のクッションをポンと渡された。
「初めての映画鑑賞だもんね、暗くしようか」
そう言うと、テレビの電源を入れた後、部屋の明かりを消した。リモコンという代物で操作すると、画面の中身が動き始めた。
「おお、あれは何だ祐介! 空を飛んでいる船があるぞ!」
「これは作られたお話だから、そのつもりで観てて」
「わ、分かった」
リアムが初めてのアニメの映画に大興奮しながら集中していると、今日ブラジャーを干している時に自分が言った言葉を言う黒眼鏡の大佐が出てきた。
静かな表情で画面を眺めている祐介の横顔を盗み見る。まさかこいつ、台詞を全部覚えているというのか。侮れん奴――!
「ほら、こっからがいいところだから集中集中」
「あ、ああ」
リアムは再び画面へと向き直った。
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