第70話 OLサツキの初級編初日の夕餉はまだまだ始まらず

 このリアムの身体は酒に強かった。


 サツキの身体だと、飲んだ瞬間から段々と疲れの様に身体に重みがのしかかってくる。職場の飲み会にはお酌と取り分け要員として参加せざるを得ず、飲みたくもないビールを注がれてちびちびと飲んだのが最後の飲酒の記憶だ。


 甘いカクテル系だとまだ飲めるのだが、あれはジュースみたいに感じてしまい、カパカパ飲んで一度山岸祐介の世話になってしまったことがある。あまりよく覚えていなくて、翌日ガンガンする頭を押さえつつ尋ねてみたが、苦笑いをされただけだった。


 それ以来、止めた。


「ちょっと! 何で先に始めてるんだよ!」


 ぞろぞろとスライム達を引き連れたアールが、手に果物らしきものと追加の棘兎を持っている。果物らしきその物体の色は明らかにおかしな色をしており、水色と黄色の縦縞が入った洋梨の様な形をしたものだった。


「お! ミント梨じゃないの! でかしたわアール!」

「へへっこいつらが秘密の場所を教えてくれたんだ」


 アールが「ライト・フィン」と唱えると、ようやく発光していたスライムが元の色に戻った。指をきゅぽん、と引き抜いてアールはそいつに手を振った。「またな」とか言っている。まさか、この先も一緒に連れていく気じゃなかろうか。


 アールが安全地帯に足を踏み入れると、スライム達も付いてきた。全然またな、じゃない。すると、一匹のスライムが座りやすそうな椅子の形を取った。


「え? 座っていいのか? いやー悪いなー」


 アールは躊躇など一切せず座った。ぽよん、とアールが小さく飛んだ。


「うおお! これ最高!」

「え、ちょっと何よ自分だけ」


 ウルスラが羨ましそうな顔をすると、アールが得意げにふんぞり返る。


「お願いしますって頼んだら、こいつらに頼んでやる」

「ねえそこの緑の君、私も座ってみたいなあ」


 ウルスラがアールを無視してスライムに直接交渉をすると、スライムはげへへ、といったような下卑た笑いを浮かべながらウルスラの尻に納まった。


「わお! ぷるんぷるん!」

「ちょっお前!」

「仲間だと認識された奴には同じ対応を取るんじゃねえの」


 受け取った棘兎に向かい「無垢な魂となりて安らかに眠れ」と呟きナイフで腹を大胆に掻っ捌くユラが、ポーカーフェイスのまま言った。血飛沫がブシャッと辺りに撒き散らされた。えぐい。


「うわっユラ飛んだ!」

「悪い悪い。確か十階間隔に風呂があるから、明日は風呂に入れるさ」

「明日までこれかよー」


 風呂のあるダンジョン。サツキは何も言えなかった。


「あ、風呂といえばさ、リアム」


 アールが照れくさそうな顔をする。何だか嫌な予感がした。


「俺さ、いきなり裸見られるのは抵抗あるからさ、女湯に行ってくれよ、な?」

「アールは初心だな」

「だってさー」

「女湯に入るなら女にならないと、入り口で雷魔法で弾かれるぞ」


 なんだその仕様は。


 すると、アールとユラがにっこりと笑顔になった。


「へへ」

「……サツキ、私がついてるわ」

「ウルスラ……」


 ウルスラが慰めるようにサツキの肩をポン、と叩いたのだった。

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