第69話 魔術師リアムの初級編初日の夕餉終了
祐介が作った豆腐とワカメの味噌汁、生姜焼きと敷き詰められたキャベツの千切り、そしてほかほかの白米。惣菜のポテトサラダなる物も盛り付けられ、リアムは
「祐介、お前は凄い!」
「はは、お褒めいただきありがとう」
「では有り難く頂戴する」
「はい、じゃあいただきます」
祐介が購入した赤い箸は、ラーメン屋で使用した箸よりも遥かに掴みやすかった。労れり尽くせりで申し訳なさでいっぱいだ。
祐介が熱く語っていた味噌汁の具については、祐介のあの熱量まで達することは出来なかったが、それでもとても旨かった。全て、あっという間に食してしまった。
「美味しかった?」
「最高だ」
「ふふ、よかった」
祐介はにこにこと機嫌がいい。自然リアムも笑顔になった。
「そうだ、洗い物は私がやろう!」
「いや、今日は僕がやるよ。サツキちゃんは今日はお客さんだから」
「いや、でも何から何まで申し訳なく……」
祐介が立ち上がると、皿をさっと持って行ってしまった。
「申し訳なくならなくていいよ。だって僕達付き合ってるんでしょ」
「……へ?」
リアムが驚いた表情を見せると、それまで優しげな表情をしていた祐介が、ぷっと吹いた。どうやら揶揄われたらしい。
「祐介っ」
「ははっ」
リアムが怒ると、祐介は実に楽しそうに笑った。
「そうだ、サツキちゃんさっきの筋トレで汗かいたでしょ。先にお風呂入ったら? 僕もこれ終わったら入るから、そうしたらDVD観よう」
「成程、それはいい考えだ」
リアムが立ち上がり玄関を出ようとすると、祐介がパッと手首を掴んで引き止めた。
「ほら、駄目でしょ」
「――ああ、そうか」
羽田の用心の為一人で行動しないと言われていたのに、すぐに忘れてしまう。
祐介は手をタオルでささっと拭くと、先に自分が出て周囲を確認した後、リアムを呼んだ。
「おいで、大丈夫そう」
「済まないな」
「気にしないでってば」
リアムがサツキの家の鍵を開けると、祐介がにっこりとその様子を見ている。
「僕が迎えに行くまで、絶っっっ対に開けないでね」
笑顔だが、何だか怖かった。こいつ、何故か怒っていないか? 何か怒らせるようなことをしただろうか。
「返事は?」
「は、はい!」
「よろしい。お風呂に浸かる? シャワーだけ?」
「早くそのDVDというものを見てみたいので、シャワーだけにするつもりだぞ」
「分かった、じゃあ僕もなるべく急ぐ」
「あ、ドライヤー」
今朝髪の毛を大量に吸い込んで苦労したあれはどうすべきだろうか。
「僕がやる」
「……済まぬな」
「大丈夫。むしろ今となっては嬉し……コホン」
「では急ぐから」
「うん。家に入ったら即座に鍵閉めてね」
最大級のにっこりで、祐介が言った。
笑顔が怖い。
リアムはコクコクと幾度も頷くと、家の中に入り即座に鍵を閉めたのだった。
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