第40話 OLサツキ、なかなか探索開始しない
ウルスラがニーナに連れられ寮長と呼んでいた人物の元へと行ってしまっている間、サツキはクローゼットの中で何とも言えない悪臭漂うどぎついカラーの毛皮を纏ったまま死んだふりを続けた。
「何やってるんだろう……」
だが、今日はもうイルミナの呪文が使えない。ウルスラが戻ってきて荷物をまとめるまでの我慢だ。鼻をつまもうと思ったが、手を覆う毛皮も臭かった。
「おえええ……」
結局三十分程その状態で放置され、げんなりした顔でウルスラが帰ってくると、ドアの鍵をしっかりと閉めた。
「サツキ、ごめん、お待たせ」
「……臭いよう」
「悪かったって」
「これ、意味あったの……?」
つい責めるような口調になってしまった。
「脱ぎたい……」
「駄目」
「何でよお」
「下着一枚で女性の部屋を彷徨くつもり?」
「はっ――でも脱がしたのはウルスラじゃない!」
「しっ声が大きい!」
「あ……」
仕方ない。ウルスラの言うことにも一理あるし、女人禁制の部屋から男の声がしても問題に違いない。サツキは不満に思いながらも、毛皮を着たまま膝を抱えて座り待機することにした。
ウルスラは小さな鞄にぽいぽいと服を放り投げていくが、全く溢れ出ない。あれも魔法的な何かなのだろうか。
「よし! お待たせサツキ! さ、リアムの家に帰りましょ」
「うん」
ウルスラがどぎついカラーの毛皮の手を取った。よくこれの手を取れるものだ。
「あ」
「何、ウルスラ?」
ウルスラがぺろりと舌を出して笑った。
「さっき脱がす時、ちょっとあそこに触っちゃった。ごめんね! てへ」
「あそこって……」
「いやね、あそこはあそこよ」
ウルスラの視線が毛皮の股間部分を見た。まじか。何やってんのウルスラ、そうつっこみたかったが、勿論つっこめる訳もなく。
泣きそうになりながら、サツキは震える声で呪文を唱えた。
「フルールアレ・俺の家……」
すると杖の先端がぱあっと光り、目を開けるとリアムの家の書斎に立っていた。隣にはにこにことしているウルスラ。
「さ、夜ご飯の材料を買いに街探索よ! ちょっと変装しないとね! やだちょっとデートみたいじゃないこれ、ふふふ」
「あのー……これ、脱いでいい?」
「あ、いいわよ」
サツキは言われた瞬間、毛皮を脱ぎにかかる。思ったよりもしっかりぴったりはまってしまい、なかなか脱げない。首の部分から腕を何とか取り出し、一気に下へと降ろす。
「……わお」
「へ?」
ウルスラの視線が自分の下腹部へと注がれている。もしや。サツキはそうっと視線を下に向ける。
大慌てで毛皮の中に取り残された下着を引き上げた。ウルスラ、そこで残念そうな顔をしないで!
「もう……いやああああ!」
さめざめと泣き出したサツキだった。
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