第39話 魔術師リアム、探索開始
リアムが昨日使用していた鞄を持っているのを見ると、祐介がこれは仕事用なのだと教えてくれた。普段使いの鞄がある様なので一度部屋に戻り探すと、箪笥の上にポンと小さな鞄が置いてあった。ハンドバッグという代物らしい。上の方にあるのでよく見えず見落としていたのだ。
「何を持っていけばいいのだ?」
リアムはまだこちらの世界の通貨や支払いの仕組みも分からない。鞄の中身はそれなりに整理しておいたので、玄関で中身を出した。祐介が必要な物を選んでいく。
「財布、鍵、あと携帯かな。お、凄え今どきガラケーか」
「がらけー?」
「……うん、ゆっくり説明するから」
持っていかない物は再度鞄にしまうと、ハンドバッグを肩に掛け再度サンダルを突っかけ外に出る。先端が丸くなった少し大ぶりの踵部分が開いたタイプのサンダルで、少し大きくパカパカする。
「痛くならないかな? まあ駅前位なら大丈夫かなあ」
祐介が心配顔をして見せる。随分と過保護なものだ。余程信用がないのか。
「昨日履いていた靴は大きい癖に前が窮屈で堪らなかったからな、少し大きい位がいい」
「あれは仕事用だと思うよ」
「そうなのか……色々とあるのだな」
「仕事のことはまた後で説明するよ。今は駅までの道を覚えようか」
にっこりとすると、鍵を閉めて振り返ったリアムの手を再び握った。リアムは手を引っ張って取ろうとしたが、祐介はぎゅっと握って離さない。
「祐介、今日はあの靴ではないから手を繋がなくとも問題はないと思うぞ」
「迷子になったら帰れないでしょ」
「成程……深慮感謝する」
祐介は年若いとはいえなかなかにしっかりとした青年の様だ。リアムはそれ以上は疑問を持たず、リアムよりも大分背の高い祐介を見上げ関心しつつ微笑みかけた。ひく、と口の端が上がった様に見えたのは何だったのだろうか。やはり見慣れぬのっぺりとした顔だからか、いまいち表情が読みにくい。
「昨日は夜だったから分からなかったかもしれないけど、あのアパートは商店街の外れにあるから、前の道を真っ直ぐ行けば駅に着くよ」
「一本道なら迷子になりようがないではないか」
「だってまだ信用出来ないもん。サツキちゃんいきなり走りそうだし」
「ふむ。確固とした信頼関係を築くには時間は必要だしな、一理あるか」
「理解いただけてありがとう」
「なに、私は祐介がいないともうどうしようもないのだ、祐介の言葉に耳を傾けるのは当然だろう」
「……くおおっ」
「どうした」
「何でもありません」
きりっとした顔で祐介が言うと、穏やかに商店街の左右にある店の説明を始めたのだった。
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