第37話 魔術師リアム、腹が減る

 祐介に髪の毛をドライヤーで乾かしてもらった後、玄関とは反対側にあった扉を開けた所にある物干しスペース脇に設置された、洗濯機なる物の使用方法を説明してくれることになった。


 サツキはそこそこ溜め込んでいたらしく、蓋を開けると半分以上入っている。


 祐介の家とは隣接しているが、敷地の境目には金属製と思われる柵が設けられており、下の部分は完全に不透明だが上半分は網状になっている。


 祐介がキョロキョロと辺りを見回して警戒していた。


「……敵でもいるのか?」


 平和な国だと聞いたが、必ずしも当てはまらない場合もあるのか。リアムが真剣な顔で尋ねると、祐介はくしゃ、と笑った。こいつは笑うとかなり幼く見える。


「敵はいません」

「では、何故その様に警戒しているのだ」

「だってサツキちゃんちの敷地にパンツ一丁の僕がいるのを見られたらさ、ね?」


 得心がいった。


「一晩を共に過ごしたと思われては困る、ということだな!」

「ぶっっ」


 女の身体には慣れてきたが、どうも自分が女だという自覚までには至らない。


「それは済まなかった。……やはり意中の女子おなごが近辺に住んでいるのではないのか?」

「いません」

「頑なだな」

「いないっつってんでしょ」

「怪しい」

「……そんな怪しいと思うならさ、ブラジャーのホックはめさせたりさ……」

「何だ?」

「何でもありません」


 本当に独り言が多い奴だ。実は相当寂しい奴なのかもしれない。


 コホン、と咳払いしてから、祐介は説明を再開した。


「多分だけど、ブラジャーとか、シャカシャカの素材の服とかは網に入れてると思う」

「網……」


 リアムが洗濯機の中を漁ると、確かに白い網の袋の中にブラジャーらしき物体が納まっている。


「これは何故だ?」

「調べたところによると、型崩れしたりと早く悪くなってしまうかららしい」

「ほお。では昨晩脱いだこれも入れねばな」


 とりあえず畳んでまとめておいた洗濯物の中からブラジャーを取り出し、網に入れる。祐介は顔を背けつつ、時折チラチラと見ていた。


「今更なんだ、先程存分に観察しただろうが」

「……言い方ってあるよね」


 ぐう、と腹が鳴った。


「祐介、腹が減った。説明を急いでくれないか」

「もおおおおっ」


 電源という物の入れ方、設定の仕方、洗剤の入れ方を足早に説明した祐介は、


「すぐにまた来るから待ってなさい!」


 と偉そうに人を指差し家を出て行った。リアムは言われた通り、ベッドに腰掛けつつ祐介が来るのを待つ。


 まだ年若いというのに、何だかんだ全て面倒を見てくれていて天晴れな奴だ。時折独り言を言ったり急に敬語になったりとおかしな態度を取ることも多いが、それも若さ故と思えば可愛いものだ。


 コンコン、と扉をノックする音がしたので、リアムは玄関の扉を開ける。昨日のカチッとした服装とは打って変わってラフな格好をしていて、更に若く見える。


「ふふ、可愛いものだな」


 リアムが笑ってそう言うと、少し口を尖らせた祐介が無言のままリアムの手を握った。

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