第10話 OLサツキ、家に向かう
ダンジョンから出るのは一瞬だった。
ダンジョンは、一度踏み入れた場所と出口とで行き来出来るらしい。そういえばたまにやったゲームでもそんな設定があった様な気がするが、サツキはどうも根気がないのかレベル上げが上手く行かず、初期の段階で中ボスに勝てずにつまらなくなってすぐに飽きてしまった記憶しかない。
各フロアにある魔法陣が一体どうやって行ったことがある人とない人とを選別しているのかは謎だが、魔法があってドラゴンがいる位だから、まあそういうものなのだろう。深く考えてもきっと答えは出ない。出たところでサツキには関係もないだろう。
ダンジョンの入り口は、広大な森の中にあった。廃墟なのか、崩れかけたまるでアンコールワットの様な建造物の奥にぽっかりと口を開けていた。よくこんな所に入ろうと思うものだ。信じられなかった。
ウルスラが腰に手を当てて一行を振り返った。
「さて、そしたら街に帰りましょうか」
アールがポケットや鞄を弄ってから、空っぽのポケットを出してみせた。埃がふわりと風に飛ばされて行った。
「俺、羽根切らしちゃった」
「俺はあったかも」
ユラが、よく見ると案外薄汚れている白いローブの奥を探す。暫くして、ローブの奥からへろへろの青い羽根を取り出した。
「皺くちゃだけど飛べるかな?」
はは、と笑う金髪イケメン。そういえば日本語じゃないみたいだけど、すんなり理解出来ている。これはきっとこの身体の持ち主であるリアムのお陰だろう。意識はサツキでも、脳みそはリアムのものなのだ、きっと。
「もうちょっときちんと管理しなさいよね」
ウルスラが呆れた様な笑みを浮かべた。
サツキは皆が一体何を話しているのかが分からず、ただ立ち尽くしていた。羽根? 飛ぶ? どういうことだろう。
「まあ大丈夫でしょ。さ、リアムは私と手を繋ぎましょう」
サツキは訳が分からないまま、差し出されたウルスラの手を握った。思ったよりもゴツゴツした手だ。剣を振り回しているからかもしれない。
「最近ウルスラってリアム、リアム、だよなあ。怪しいなあ」
ユラがニヤリと笑う。するとウルスラが真っ赤になった。あら可愛い、そして分かり易い。
「ばっ馬鹿言わないでよっ! あんた達は触り方がいやらしいからよ! リアムは紳士だもの!」
そうか、この身体の持ち主はきちんとした人らしい。であれば、余計に見苦しい真似をしたら周りがギャップに慄くのだろう。気を付けなければ。
「まあなー、リアムは寡黙だし真面目だし、いい男だもんなあ」
そう言いながら黒髪の好みドストライクなイケメンが手を出してきたので、内心ちょっとドキドキしながらサツキはその手を握った。汗なんてかいて気持ち悪がられないだろうか。
ユラとアールも手を繋ぐと、へろへろの羽根を持った手を掲げたユラが声高々に言った。
「フルール! バルバイトへ!」
その瞬間、一行を青い光が包んだ。
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