第11話 魔術師リアム、自身を確認する

 祐介に手を引かれたまま、慣れないヒールの靴をグラグラさせながら階段を登り切ると、見たこともない光る扉の様な物がずらりと並んでいた。


「祐介、これは何だ?」


 え? という表情で祐介がリアムを見下ろす。するとガサガサと自分の後ろポケットから手のひらサイズのカードの様な物を取り出して見せた。


「これと同じの、持ってない?」


 リアムは、自然と抱えていた肩掛けの鞄を外すと、しゃがみ込んで中を漁り出した。女子おなごの鞄を覗くとは悪趣味ではあるが、背に腹はかえられない。


 すると祐介が慌ててリアムの前に来て同じ様に座ると、目線を逸らして少し顔を赤らめつつ、リアムの脚を指差した。


「あ、あのさ、足閉じた方がいいよ」


 リアムは自分の足を見た。かなり短いぴちぴちのスカートを着用している。しゃがみ込み足を開いた所為で、かなり際どい部分まであらわになっていた。


「ああ、済まない」


 リアムは足を閉じて膝を床につくことにした。


 しかし何という服装だ。上半身はかっちりとした服装だから下も同じかと思いきや、まるで遊女の様に剥き出しになった足。何か薄い物に包まれており、これまでスカートがここまで短いことに気付いていなかったのだ。


 リアムはじっと足を纏う薄い布を凝視した。一体何をどうやったら、こんな薄い物を作ることが出来るのだろうか。ジャイアントウォームの幼体からしか採取出来ないという伝説の糸で編んだ羽衣の話なら聞いたことはあるが、それに近い物なのだろうか。


 侮りがたし、サツキ。


「あのー、サツキちゃん?」


 しゃがんだままの祐介が、リアムを覗き込んできた。しまった、食い入る様にこの網状の布を見つめてしまい、肝心の物体を探すのを失念していた。


「済まない、考え込んでしまっていた」


 急ぎ鞄の中を再度漁る。しかし何という整っていない鞄だろうか。明らかにゴミだと思われるくしゃくしゃになった銀色の薄い紙や鼻紙と思われる物が底の方に溜まっている。


 リアムは顔をしかめた。


「サツキちゃん、僕が探そうか?」

「駄目だ。女子おなごの鞄の中身を男二人で漁るなどあってはならん」

「は、ははは」


 何か白っぽい物が見えたので、リアムはそれを取り出した。四角いツルツルの袋状の物だ。


「これは違うか?」

「さっサツキちゃん! それは違うからしまって!」


 祐介が真っ赤になると、リアムの手を掴み鞄の中にその物体ごと突っ込んだ。


「今のは何だ?」

「……説明するから、まずは手を離そうか」


 リアムは素直に従った。


 コホン、と祐介が咳払いをした後、リアムの耳元で小声で言った。


「えー、今のは生理用品のナプキンといって、何でそのまま入ってんのって思ったけど、その、まああまり大っぴらに見せる物ではないかと」

「成程、女性の月のものは秘匿されているのだな。理解した」


 そのあたりはリアムの世界と一緒だ。


 やがて暫くの後、リアムは目的の物を探し当てたのだった。

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