第8話 OLサツキを導く者

 何とかドラゴンの髭を切り落とした茶髪の女、ウルスラと黒髪の男がユラとサツキのいる場所へと満面の笑みを浮かべつつ駆け寄ってきた。


「リアム!! 良かった!!」


 黒髪の男がサツキに全力で抱きついてきて、サツキは勢いのまま後ろにひっくり返りそうになる。するとユラがサツキの背中を支えてくれた。


「きゃあっ」

「アール! リアムは蘇生したばっかなんだぞ!」

「あっ悪い! 俺嬉しくて!」

「ヒイイイイッ」


 前後を男に挟まれるなど、満員電車以外で経験したことがない。しかも背後のユラはイケメン。アールと呼ばれた黒髪の男がサツキにうずめていた顔を上げると、幼さの残る凛々しい顔を可愛らしい笑みで一杯にした。


 ドストライクな顔面だった。サツキが好きなアイドル達の様な幼い笑顔。彼等は苦労があるだろうに笑顔を絶やさず、歌も踊りも上手くてその影にある努力を想像すると、ただひたすらに萌えた。


 あの強さが欲しい。よく思った。


「あ、あの」

「どうしたんだリアム?」


 にこにことするアールの笑顔が曇った。背後から、ユラが言いにくそうにアールに伝える。


「アール、ウルスラ。死者蘇生の術の影響か、リアムの記憶がおかしいんだ」

「え!?」

「記憶ってどういうことよ!」


 ウルスラが膝をついてサツキに迫った。この子も可愛い。ふんわりした雰囲気というか、優しげな顔つきだ。吸い込まれそうな萌黄色もえぎいろの瞳が、痛ましそうにこちらを見つめる。


 何だか罪悪感だ。


「家も分からないって」

「え……」


 アールとウルスラが、愕然とした表情を浮かべた。


「あ、あの、すみません」


 思わず謝った。途端、全員が思い切り否定を始める。


「リアムは悪くねえよ! 俺が未熟なばかりに中途半端な結果になっちまって……!」

「いや! 元々は俺がゴブリンを舐めてたからこんなことになったんだ! 悪かった、リアム!」

「私、見習い勇者だからって経験豊かなリアムに頼り過ぎてた! ごめんなさいリアム!」


 何だ見習い勇者って、そう思ったが、三人のあまりの勢いに引っ込み思案のサツキがそんなツッコミなど出来る筈もなく。


 とりあえず、笑ってみた。


「あは、ははは」



 すると、三人も笑い出した。何ていい人達だろう。


 この身体の主、リアムは随分と仲間から信頼されているらしい。素直に羨ましいと思った。いつも周りから蔑まれ、馬鹿にされるとろいサツキとは正反対だ。


 何故サツキがそのリアムの身体に入ってしまったのかは分からない。だが、リアムに身体を返せるとなった時、リアムが恥じる様なことだけにはなっていてはいけない。


「さ、リアム。帰ろう。凱旋だ」


 アールが立ち上がると、サツキに手を差し伸べた。


 サツキは、その手をしっかりと握った。

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