第7話 魔術師リアムを導く者

 男は、どうやらサツキの恋人ではないらしい。それが分かっただけでも収穫は大きかった。


 つまりは手を出したら燃やせばいいということだ。今はこの身体を間借りしている身、サツキに不利な状況を作るのは避けてやりたかった。顔は分からないが、肌を見る限りかなり若い女性である。リアムと違って、まだまだこれから先がある。


 とにかく帰ろうと男がしつこいので、確かに家の場所も分からないのでリアムは警戒しつつも男に従うことにした。


 目の前に滑り込んできた金属製の箱の扉が、勝手に開く。


 リアムは眉を顰めた。


「これは一体、どういった魔法だ?」

「……サツキちゃん、と、とりあえず乗って」


 笑顔を引き攣らせながら、リアムの手首を掴んで一向に離そうとしない男が促す。リアムは箱の中を訝しげに覗き込んだ。大勢の人が中に収まっている。魔導式の乗り合い馬車の様なものだろうか。


 男に半ば押される形で内部に足を踏み入れると、座席は全て埋まっており、上からぶら下げられた手すりの様な物に掴まっている、皆一様に同じ様なカチッとした形の服を着た年齢はバラバラの男達が、リアム達をジロジロと見る。不躾な奴らだ。


「サツキちゃん、次の出口こっちが開くから」


 男がリアムを引っ張って反対側の扉と思わしき場所へと導いた。リアムが歩を進めると、男達の視線がそのまま自分の進む方向へと移動する。


 目線は合わない。間違いない、奴らは明らかにリアムの胸部を見ていた。


 リアムはキッと周りを睨みつけると、男達の視線が落ちた。よし。


 箱がガタン、と揺れて進み出した。転ばぬ様にと一歩踏み込むと、足首がぐき、と曲がった。


「おわっ!」

「サツキちゃん危ないっ」


 男がリアムの肩を覆う様に掴んで支えた。一応この男には、サツキを守ろうという気概があるらしい。


 リアムは素直に礼を述べた。


「済まぬ。どうも随分と不安定な靴を履いている様だ」

「あ、あははは」


 リアムは胸の先にある小さな靴を見た。何という細い足。筋力なんて全くない。なのにこんな尖った細いヒールの靴を履き、この身体の持ち主は一体何処を目指しているのか。


 リアムがちっと舌打ちをした。途端、箱内部の雰囲気がおかしくなった気がしたが、気の所為であろうか。


「こんな靴でどうやって戦えと言うのだ」

「えーとサツキちゃん、一体誰と戦うつもり?」


 リアムは自分を支える男を見上げた。このサツキという女は、背も低そうだった。


「……お前には色々と聞きたいことがある」

「あの、お前じゃなくて、僕、山岸祐介やまぎしゆうすけね。まさかそれも忘れてる?」

「先程伝えた筈だ、ヤマギシユウスケ。私はリアムという名で」

「あの、フルネームで呼ぶのやめて」


 自分で名乗っておいて呼ぶなとは何て勝手な奴だろうか。


 だがリアムの方が明らかに年上である。ここはリアムが譲ってやろうと思った。


「では何と呼べばいい?」


 ヤマギシユウスケを睨みつけつつ、リアムは聞いた。

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