第6話

「蓮、何故今日は裸エプロンじゃないんだ?」


帰宅して台所で料理を作っていると今帰宅なさった姉様が煙草を咥えながら詰まらなさそうに問いかけてくる。


「男の裸エプロンを帰宅早々所望する姉は姉さんくらいだよ。」


普通弟のそんな姿は見たくないだろうに。


本当に真顔で言ってくるから冗談なのか本気なのかわからない、この人。


「というか姉さん、一つ聞きたかったんだけど姉さんが優斗さんに恋愛感情がないのはわかった。だけどさ、男同士でそういう関係ってのは普通ではないわけじゃん?その、俺たちがそういうのするの不快に思わないわけ?」


「不快に思うなら進めるわけがないだろう。馬鹿か?……あ、馬鹿だったな。」


俺の問いかけにひどくさらりと返してくる我が姉。


時々思うんだけどこの涼しい返しを聞いていると俺とじゃなくて本当の兄弟は天音なんじゃないかと思うくらいこの二人の返しは似ている気がする。


二人ともクールっていうか、本当に動じない性格だなとひどく思う。


それに姉さんだけでなく天音も俺が優斗さんとそういうことしたって話した時不快そうな顔を見せなかった。


自分は完全に女の子が大好きなくせに不快感を持たないから本当にすごいと思う。


そして驚いて動転していたと言え優斗さんに抱かれた翌日にその事実を天音にこぼした俺もある意味すごいと思う。


「まぁちなみに言えば嫌悪感がないどころか男同士の交尾にはいささか興味があるししいて言えば見学したいくらいだな。」


「やめて!絶対それやめて!!!」


涼しい顔してまたすごい発言をする姉に俺は声を荒らげ拒否の意思を表現する。


本当にこの姉は何を考えているのだろうか。


そんなことを思っているとリビングの扉が開き、会社から帰宅した優斗さんが現れた。


「ただいま、二人とも。」


柔らかく俺たちに笑いかけてくる優斗さん。


身長が高いけどなんだか小動物のような癒しオーラを放っている優斗さんにちょっとほんわかしてくる。


姉さんの爆弾発言なんて頭からすっと抜けていく。


「おかえりなさい、優斗さん。今日もお疲れ様です。」


ほんわかしたオーラに癒されながら俺は優斗さんに声をかけた。


その次の瞬間だった。


「やり直しだ、蓮。」


姉からのダメ出しが飛んできた。


「や、やり直しって、なんで?」


普通に一般的な挨拶をしたと思う。


一体何がいけないというのだろうか、この姉は。


「お前は本当に馬鹿だな。お前たちは新婚で、お前は新妻なわけだ。ここは帰宅した優斗に「おかえりなさい、あなた。ご飯にする?それともお風呂?それとも――――――」というべきところだろうに。」


「は!?ちょ、な、何言ってるんだよ!ってかそのつもりがなくても書類上新妻は姉さん!!」


やるなら自分がやってくれ!


そういいたくて姉に声を荒げる俺。


そんな俺に優斗さんがゆっくりと近づいてきて、肩を掴んでくる。


「ゆ、優斗さん?」


どうしたのだろうか。


そう思いながら優斗さんを見つめると優斗さんは今の今までだしていた小動物っぽいオーラを消し、どちらかというと肉食の狼のようなオーラを放ちだしていた。


「蓮君、是非お願いします。」


「……え?」


「確かに俺は書類上は小春の夫だけど、俺が妻にしたいのは蓮君、君だけなんだ。だからそんな君に俺は小春が言っていた言葉を言われたい。」


真剣な瞳で懇願してくる優斗さん。


あまりにも真剣な瞳に断れない雰囲気を出してくる。


とはいえそんな恥ずかしいセリフ言えるわけもない。


でも、言えないとも言えない。


だけどとりあえず姉に見守られているこの場でいうのは絶対に嫌だ!


「わ、わかった!でも、それは明日じゃダメかな……?」


(確か姉さん、明日は出張だったはずだし……。)


妊婦さんが出張なんてと思うけど姉さんは明日、北海道までどうしても出張しなければならないらしい。


でもそれがこの場においては好都合なわけだ。


明日は姉の目を気にしないでいいと考えるとまだ頑張れる気がする。


なんて思っていると俺の身体は優斗さんに勢いよく抱きしめられた。


「ちょ、ゆ、優斗さん!?」


いきなり抱きしめられて驚いた俺は別に抵抗はしないけど驚いた声をあげた。


そんな驚く俺を優斗さんは優しき抱きしめてくる。


「楽しみにしてるね、蓮君。」


嬉しそうに俺の耳元でささやく優斗さん。


そんな嬉しそうにされると気恥ずかしくて俺は小さな声で「うん。」と返した。


それから少しして優斗さんの身体と俺の身体が離れると俺たちは今日こそは夜ご飯を3人で食べ始めたのだった。


「蓮君の肉じゃが、久しぶりだなぁ。」


嬉しそうな上おいしそうに食べてくれる優斗さん。


作りがいがあるその反応に嬉しくなる。


そして姉さんはというと無表情で黙々と素早く橋を動かして食事をしている。


ちなみにこれはとてもおいしいという反応だ。


姉さんは好みでない料理にはあまり手を付けないし、おいしくなければひどく橋の進む速度が遅い。


どうやら二人とも満足してくれているみたいで嬉しい。


「そういえば蓮君、今日のお弁当もとってもおいしかったよ。これから毎日怜君のお弁当が食べられると思うと俺、嬉しすぎて死にそうだ……。」


すごく穏やかな笑みを浮かべながら笑えないことを言う優斗さん。


それぐらい喜んでくれてるのはうれしいが最後の最後に縁起でもない言葉を足すのはやめていただきたい。


「まぁ一応、俺は二人に養われてるわけ何でこれくらいは……。」


俺は過保護な姉さんからバイトの許可はもらえず、今もなおお小遣いをもらっている。


でもただただ貰うわけにもいかないから家の事は何でもやるようにしている。


と、言う事実をよくよく考えると……


(普通に専業主婦みたいなことやってるんだよな、俺。)


違う事といえば学校に行ってることぐらいだ。


まぁでも多分それが姉さんの願いなのではあるのだと思う。


会社は継がないにしても高校を卒業したら会社に入りたいなって思ってたんだけど、多分会社に入るのも許されないだろう。


この間の姉さんの話から察するに俺は姉さんの子供の育ての親としてこの家で育児をすることを望まれていそうだ。


というか姉の出産予定日が3月末なのは俺の卒業を狙っての事じゃないだろうな?と少し思わなくもなってきた。


でも正直、俺は姉さんも優斗さんも好きだ。


このままずっとこうやって3人、いや、いずれ姉さんの子供も含めたら4人で生きていけるのは少しうれしいと思わなくもない。


(……あ、そういえば。)


「ねぇ優斗さん。後で少し見て欲しいものがあるんだけど、食べ終わったら優斗さんの部屋行ってもいいかな?」


「え?う、うん。もちろんいいけど……」


俺の問いかけに少し驚いたように反応を見せ返答を返してくれる優斗さん。


「俺、理性保てるかな。」


そんな優斗さんが小さく何やら言った気がするけどあまりよく聞こえない。


だけどその言葉を言いなおしはしない優斗さんを見てとりあえず気にしないでいいことかもしれないと思った俺はそのまま食事をつづけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る