第5話
(結局やることをとことんやってしまった……。)
翌日、俺は教室で昨日の自分の行動を顧みてひどい羞恥心に襲われていた。
(っていうか俺ってもしかして淫乱なのかな……。)
女の子が好きだなんだと言いつつ俺は気持ちいいなら何でもいいのかもしれないとふと思わなくもない。
実際、優斗さんに抱かれて俺は一度も「気持ち悪い」とは感じてはいなくて、ただ終わった後に感じるのは「やってしまった」という羞恥心。
淫乱故相手を選ばないのか、それとも実は男もいけたのか……。
どちらにせよ昨日は最終的に抱いていいと自分から言ってしまった。
多分最終的には俺から誘ったわけで、なんかあの時の事を思い出すと恥ずかしくてたまらない。
(というかなんか俺、最低じゃない?)
本当に不覚にも俺は気持ちよさに負けて優斗さんとあぁいうことをしたいと思ってしまった。
つまり好きだから愛情を確かめ合いたいとかいう目的で体を重ねたいと思ったわけではないわけで……。
「うぅ、どうしよう天音。俺は結構な淫乱かもしれない。」
「おいおい、お前が淫乱だったら俺どうなんの?」
現在高校では昼休みの時間。
そんな昼休みに俺と一緒に食事をとっている人物は卯月天音。
優斗さんの従弟で俺の幼馴染。
ちなみにひどい遊び人である。
「ってか童貞卒業する前に処女喪失するとかお前、やっぱマジで女だったんじゃね?」
「何度も学校行事で俺についてるの見たことあるくせに何言ってんだよ。」
早々に昼食を食べ終え、食後のデザート代わりに紙パックのイチゴオレを飲んでいる天音は俺の事をからかいながらまだあまり手が付けれていない俺のお弁当から唐揚げを盗もうとしてくる。
「ったく、こそこそしてないでほら。」
別にほしいといえば全然上げてもいいくらいに思ってる俺は唐揚げを箸で掴んで天音に差し出す。
すると天音は嬉しそうにかぶりついた。
「いいよな、優兄は。毎日お前のこの上手い飯食えるんだもんな。一応愛妻弁当作ってんの?」
「愛妻っていうか、一応姉さんの分も含めて3つ作ったけど……。」
もうお気づきかもしれないが天音にはすべてを話している。
というか、俺が妻になるという事を俺よりも先に優斗さんから聞かされていたらしい。
ちなみに言うと俺に彼女ができる度姉さんに頼まれて身辺調査をしているのはほかでもなくこの天音だ。
天音曰くいい小遣い稼ぎになるらしい。
「しっかし、お前本当に気づいてなかったんだな。優兄の気持ち。あんなにお前に頻繁に発情しまくってたのに。」
「……そんなあからさまだったの?あの人。」
当人はあまりよく気づかないとはこのことなのだろうか。
正直俺は気づいていなかったけどあの人はそんなにやばい人だったのだろうか。
「ってかお前、首元キスマークつけられてるけど隠さんでいいわけ?いくら前カノが金目当てとはいえ、プライド高い女だから見つかるとめんどくせぇんじゃね?」
「えっ、嘘、ついてる!?」
「ついとるついとる。ま、なんか言われることあったら冗談で俺につけられたっていっとき?あそ便の俺が付けたなら納得とか思われるだろうよ。」
軽い口調でジュースを飲みながら言ってくる天音。
昨日キスマークを付けられているとは気づかなかった。
(とりあえず別れて次の日、元彼にキスマークついてたら変だろうし、なんか聞かれることがあったら天音の提案に乗らせてもらおう。)
そう思いながらようやく気持ちが少し落ち着いてきた俺はお弁当を少しずつ食べ始める。
が、その瞬間とても大事なことに気づいた。
「俺、天音ともキスできるかも。」
「…………は?」
天音の提案を素直に受け入れた自分。
それについてすこし違和感を覚えた。
普通ならその提案自体に嫌悪感を抱く者ではないのだろうか、と。
冗談でも男にキスマークを付けられるなんて不快だと思う。
だけど俺は不快という感情もなくすんなりとその提案をいざというときは採用させてもらおうと思った。
ということはつまり天音とそういう事をしたとしても別に不快ではないということかもしれない。
そう思い立ったら天音の顔を見て俺はポロリと言葉をこぼしてしまったわけだ。
「いや、俺が無理なんだけど……。」
「あ、ご、ごめん。」
すごいげんなりとした顔で拒絶してくる天音。
うん、多分これが一般的な反応だと思う……。
「いやさ、今一つの可能性を考えてたんだよ。俺って女の子が好きだって思ってたけど、もしかしてそういう場面にでくわさなかっただけで実は男もいけるんじゃないかって。」
「まぁそういう確率はあるかもな。お前なんだかんだ基本彼女いたしな。全員本気でお前のこと好きじゃなかったけど。」
「うぅ……俺遊ばれやすい体質とかなのかな……。」
俺の疑問にさらりと答える天音はついでに俺にとって痛いところをついてくる。
気にしてないわけじゃないのに……。
「いつもさ、この人は大丈夫だって信じるんだ。でもその度裏切られる。俺はどうせ単純で馬鹿だから「好き」って言われたら馬鹿らしく信じて、その人に愛されたいって思うんだ。でも誰からも愛されてないとか虚しすぎるよね。」
それこそただドラマとかで見るような素敵なお付き合いがしたいだけなんだ。
別に俺自体が二股とかをしているわけではない。
なのにどうして純粋に愛してくれる子がいないのだろうか。
「俺、そんなに魅力ないかな。」
昨日別れ話した時も女みたいと言われた。
男としての魅力がそんなにないのかと正直考えてはしまうわけだ。
「お前馬鹿でよかったじゃん。だったら優兄がお前を愛したらお前は多分優兄が好きになれるんだろう?まぁ、そういう状態を流されてると言えなくもないけど、それで幸せになれるんだったらそれでいいと思うけどね、俺は。女運ないわけだし女はこの際すっぱりあきらめて、体の愛称だって悪いわけじゃないんだから優兄の妻として生きていけばいいんじゃない?」
飲み終わりかけの紙パックジュースを音を鳴らしながら飲む天音は確かに僕が幸せになれそうな未来を提案してくれる。
だけどこれに限っては天音の言ってることは間違いないんだけど簡単に首を振れない。
「だって、優斗さんは俺にとってやっぱりお兄さんって感じで、恋人でもぴんと来ないのにましてや夫婦なんて訳が分からないよ。それに何で俺の事が好きなんだろうって考えるとさ、やっぱ弟可愛がりな気がする。天音だって俺と同じように可愛がられてたし。」
小さいころから一緒に時間を過ごしているからこそわかる。
俺たち二人は優斗さんにとっていつだって弟ポジションだった。
つまり優斗さんだって好きは好きでも弟が好きみたいな感覚ではないのだろうかと思わずにいられない。
「……それはお前に変態なのがばれないように生きてきてたからだろうけどな。」
優斗さんの事について馬鹿なりに考えを巡らせる俺。
そんな俺の傍らで天音が今何かつぶやいた気がするが上手く聞き取れずに聞き直すけど天音は「別に」と返してきた。
多分大して大事なことではないのだろうと思いまた思い悩む。
「仕方ない、そんなに普段使わない頭使いすぎるとさらに頭悪い答え出しそうだし、情報屋の天音様が結婚祝いにいいことを教えてやろうか?」
「何やらいろいろ気になる言葉があるんだけど、いいこと教えてもらえるなら教えてほしいです。」
頭悪い答えとか結婚祝いとか突っ込みたいけど今はどうでもいい。
とりあえずこの悩みを少しでも解決できそうな答えをくれるならと俺は言いたいことを飲み込んでいいことを教えてもらおうと決める。
すると天音は俺に二枚の写真を差し出してきた。
「って、ちょ!何この写真!!」
差し出された写真を確認して俺はついつい大きな声をあげてしまう。
そのせいでクラスの人たちから注目を集めてしまい、ひどく恥ずかしくなる。
そんな俺に天音は「落ち着け」と言いながら座ることを促してくるので俺は黙って再び席に着く。
「で、なんで俺の裸の写真持ってるわけ……?」
「水泳の授業ん時に隠し撮りした。」
俺の問いに悪びれず返答する天音。
しかも――――――
「3万で売れたわ。いやぁ、ほんと何時もお前のおかげで女の子とのホテル代が稼げるのなんの。」
「はぁ!?ちょ、人のこと売っといてそんなことに使ってるわけ!?」
隠し撮りだけでなくどうも売りさばいてまでいるらしい。
もしかして俺たちが幼馴染と思っているのは俺だけなのかもしれない……。
なんて思いながらもう一枚の写真を見るともう一枚はまさかの天音の裸の写真だった。
「お、おま、おまっ……!」
何でこんなものを普段から持ち歩いてるのかとか、なんでこんなものを俺に見せるのだとかいろいろ言いたいことがありすぎてどれから言葉にしていいものかわからず言葉にならない。
しかもこっちはまだ弁当を食べているというのに一体全体こいつはどういうつもりなのだろうか。
「それ、写真部の女の子に頼まれとったヌード写真。さっきサンプルに一枚貰った。」
「いや、だからってどうしてそれを俺に見せるんだよ!」
写真部の子に頼まれたからってヌード写真を撮るのもそもそもどうかと思うけどそれ以前に本当に何で俺にこんなものを見せてくるのだろうか。
何か?俺の身体はお前より男らしいとでも言いたいのだろうか。
「それを優兄にそれぞれ見せて写真を見るときの反応見くらべてみ?」
「……は?」
「多分面白い反応が見れると思うから。」
涼しい顔でまた俺の唐揚げを盗み食いしながら話す天音。
何だろう。
やはりどこから突っ込めばいいのかわからない。
「っていうか天音、お前優斗さんにヌード写真見られても平気なわけ?」
「別に俺自分の体に自信あるから裸見られてもなんも思わん。」
(まぁ、じゃないとヌードモデルなんてそもそもしないか……。)
というか、それを言うなら俺は自分の身体にさして自信もないので本当に隠し撮りをやめていただきたい。
(っていうか誰が俺の裸なんて3万で買ったんだよ……姉さん……なわけはないだろうし……。)
本当に天音は俺の知らないところで何をやっているのやら……。
「で、相談事はいいんだけどお前そろそろ飯食べ終わらないと昼休み終わるぞ。」
「あっ!い、急いで食べる!!」
天音から渡された写真を急いで生徒手帳にしまいこみ、俺は残っている弁当を再度食べ始める。
とりあえず天音は人の事をからかうわ、商品にするわ、ひどいところも多いけど天音も天音でいつも俺の事を思っていろいろしてくれる。
そんな天音が勧めてくれた写真の見せ比べ。
(自分の裸の写真自分で見せるのってなんか恥ずかしいけど、頑張ってみよう。)
俺は天音の提案を採用することにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます