第40話:大移動
カタカタと木製の車輪が回り、馬車が前に進んで行く。
たった半年拠点を作って暮らしただけで、多くの荷物ができてしまった。
いや、荷物などと言ってはシスターに大目玉を喰らってしまう。
宝物、子宝に恵まれたと言わなければいけない。
軍馬、軍用犬、野生馬、野犬、輓馬、狼、虎などの全てが出産したのだ。
その全頭が、自分の脚で馬車の速さについて来られるわけではない。
「キャウ、キャウ、キャウ、キャウ、キャウ」
「ミャア、ミャア、ミャア、ミャア、ミャア」
「キィー、キィー、キィー、キィー、キィー」
「クゥーン、クゥーン、クゥーン、クゥーン、クゥーン」
あちらこちらの馬車から子宝たちの鳴き声が聞こえてくる。
子宝に恵まれるたびに馬車を買い増やしたので、今では四十台になっている。
四十台もの馬車を一度に止められる野営地など滅多にないので、事前に止められる野営地や街や村を調べて、予定厳守で移動しているのだ。
シスターが心を通わせた動物達を残して行かないのは分かっていたので、この国で手に入れたほとんどの金を、馬車や荷車の購入費に充てていたのがよかった。
馬車を一頭で牽くことができる、輓馬とファングジャイアントボアの数は限られているが、シスターが魅了した野生馬の数はとても多い。
その中には乗馬や軍馬になる素養がない子もいる。
だがそんな子でも、二頭四頭で馬車を牽く事はできたりするのだ。
子供たちや女たちと仲良くなった元野生馬の中には、喜んで子供たちや女たちが乗る馬車を牽く子がいるのだ。
女一人や、子供が二人か三人しか乗らない幌馬車だと、荷物も動物の子供もたくさん乗せられるので、食材や自衛用の武器をたくさん乗せている。
立ち寄る街や村で売る商品もたくさん積むことができた。
商品とは言っても、ほとんどが魔境で狩った獲物の素材だ。
長期保存できる燻製肉や塩漬け肉もあるが、主要商品は魔物素材となる。
魔境から離れるほどに、魔獣と魔蟲の素材が高く売れるのだ。
★★★★★★
「なあ、兄ちゃん、金がないから物々交換させてくれないか。
そのファングラットの皮と牙がどうしても必要なんだよ。
それがあれば、自警団の武装が格段によくなるんだ、何とかならないか」
立ち寄った大きな村で泣きつかんばかりに頼み込まれてしまった。
他にもアイアンリザードなどの素材もあるのだが、とても買えない事が分かっているのか、ファングラットだけに狙いを定めて交渉してくる。
ファングラット程度の素材なら無償で提供してもいいのだが、それでは商人としては失格なので、相手を憐れむ事のないように自分を戒める。
目の前にいるのは村を護る気概のある漢だ、真っ当に交渉しなければいけない。
「現金がないのなら、村で作った作物でもいいですよ。
私たちが食べる穀物や野菜、保存のきくワインやリンゴ酒でも構いません。
それと、我々のキャラバンにはとても多くの動物たちがいます。
彼らが食べるワラや牧草を物々交換にしてもいいですよ。
ただし、我々の馬車や荷車に乗せられる量までですよ。
もっとも、余っている馬車や荷車を売ってくれるのなら別ですが」
「ちょっと待っていてくれないか、村中を駆け回って商品を集めてくる。
穀物や野菜に余裕のある奴は少ないがワラや牧草なら余分を持っている家もある。
馬車や荷車を売ってでも金や穀物を手に入れたい家もある。
さっきのファングラットの物々交換の話しを、薬にも当てはめてくれない」
まずい、そんな事を言われてしまったら……
「いいですよ、家族が病気になっていたら、どうしても薬が欲しいですよね。
私もシスターの端くれですから、できる限りの値引きをさせていただきます」
シスターの慈愛の心を刺激しちゃったよ。
聖女のスキルは絶対に発動しないと約束してくれたから、これくらいの事は聞いてあげないといけないけど、商人としては失格だよな。
絶対相場を無視した激安価格で薬を売っちゃうからな。
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