第39話:商人ギルド

「実家の家族に不幸があってな、家に戻らなければいけなくなった。

 だからこの国で受けられる最後の注文になるのだが、欲しいものはあるか」


 製薬ギルドを後にした俺は、その足で商人ギルドに向かった。

 商人ギルドでも、製薬ギルドとまったく同じ話をした。

 俺は商人ギルドに不用な素材と武器と防具を売っていた。

 武器や防具は争いで手に入れた三流の物と、女たちが作った物だった。

 女たちの中に、武器造りや防具造りのスキル持ちがいたのだ。

 素材は動物たちが沢山の獣や魔蟲を狩ってくれるので、有り余るほどあったのだ。


「そうなのですか、それは大変ですね。

 お気を使って頂いてありがたいのですが、今直ぐ必要な物はございません。

 処分しておきたい素材や武具がお有りでしたら、引き取らせていただいてもいいですが、何かございますか」


 さすが商人ギルドの受付だけあって、値段交渉の駆け引きに慣れている。

 買いたいものがあるのではなく、不用なものがあるなら引き取ってあげると言う。

 それだけで買い取り金額が天と地ほど変わってくるのだ。

 もし俺が手放したい不用品を持っていたら、徹底的に買い叩かれる事だろう。

 まあ、製薬ギルドと扱いが違う理由は、それだけではない。

 どうしても手に入れたい商品を作れるかどうかの差が大きいのだ。


「いや、どうしても売りたい物はなにもないからいいよ」


 俺は受付嬢に挨拶だけして商人ギルドを後にした。

 商人ギルドではマスターに取り次がれる事もなかった。

 その程度にしか評価されていなかったという事だが、それで構わない。

 俺がこの街で商人ギルドに入ったのは、この国で商売をするためだ。

 絶対に商売をするためではなく、そう言う手段を作っておくためだ。

 イェシュケ皇国の商人という立場のままでは、疑われて動き難いからだ。


「この街に戻られるような事があれば、またお取引き願います」


 受付嬢の完全な社交辞令に送られて商人ギルドを後にした。

 冒険者ギルドからずっと後をつけていた連中の気配が増えている。

 まんまと俺の挑発に乗ってきたのが分かって、その場で笑ってしまいそうだった。

 俺からみれば、明らかな挑発で、罠なのが見え見えなのだが、よく乗ったな。

 罠だと分からずに挑発に乗った馬鹿がほとんだと思うが、中にはもう後に引けないと、この街から逃げ出すのを覚悟して襲撃に加わった者もいるかもしれない。


「死ねやぁあああああ」


 音も立てずに暗殺するようなスキルもなければ訓練もしていないのだな。

 相手が魔獣や獣であろうと、狩るためには気配を隠せるほうがいいのだがな。

 厳しい訓練をするのが嫌で、楽して金を手に入れたい連中なのだろう。

 こんな連中が数多くいるから、有能な新人が育たないのだ。

 だから俺程度の人間が、冒険者ギルドナンバーワンになってしまう。

 こういう点では、冒険者ギルドのマスターは無能としか言えないな。


「死ぬのはお前達だよ」


 返事などする必要はないのだが、殺す事を宣告しておくのは礼儀かもしれない。

 誇りを持った漢同士なら、決闘する時は事前に申し込むからな。

 もっともこいつらに誇りも名誉もないだろうけどな。

 あればこんな風に大人数で闇討ちしようなんて、絶対に考えない。

 だが、まあ、こんな卑怯なやり方をしてくれたから、遠慮なく皆殺しにできる。

 この街の警備隊に取り調べられても、無罪放免される前提が成り立つ。


「「「「「ギャアアアアア」」」」」

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