第36話:聞き込み

「よう、ちょっと聞きたいんだが、いいか」


 俺は冒険者ギルドの受付に話しかけた。

 この国の魔境近くに拠点を設けてから、素材を売るために顔見知りになっている。

 栗毛の髪が美しく、顔も十人並み以上には整っている。

 スタイルもなかなかよくて、何人かいる受付の中では一番人気だという。

 多くの冒険者が狙っているようだが、俺には関係のない話しだ。


「なんでしょうか、ギルドでも稼ぎ頭のバルドさんが知りたい情報なら、できる限り集めさせて頂きますよ」


 この受付嬢が、冒険者ギルドのとってなくてはならない優秀な職員だと言うのが、今のわずかな会話だけでも理解できる。

 俺が単に話を聞きたいと言ったことに対して、情報にはお金が必要だと、やんわりと注意をしてくれているのだ。

 狩りや冒険の成否にかかわるような重大な情報を、タダで手に入れれらるはずがないのだが、そんな事も分からない狩人や冒険者が結構いるのだろう。


「ちっ、ちょっと狩りの成果がいいからって、調子に乗りやがって」


 チンピラ冒険者が聞こえよがしに悪態をついてやがる。

 この受付嬢を狙っているのか、単純に自分より成績のいい俺を妬んでいるのか。

 どちらにしても、こういう奴は大嫌いだ、声を聞くだけでも虫唾が走る。

 本心を言えば、この場で顔の形が変わるくらいボコボコに殴ってやりたい。

 こういう奴は、有望な新人を潰してでも一番になろうとする下種だ。

 ふむ、このギルドには子供たちが仲良くなった新人も多い、塵掃除しておこう。


「ああ、有益な情報に金が必要な事は分かっているよ。

 金も払わずに情報を手に入れようとする、強請り集りのような、いや、乞食のような連中と一緒にしないでくれ」


 俺はそう口にすると、心底蔑むような表情でチンピラ冒険者たちに視線を向けた。

 自分たちの事を言われた事くらいは理解できたようで、顔色が変わった。

 だがまだ俺に襲いかかるほど理性を失っていないようだ。

 俺の狩りの成績を知っているから、パーティー全員で襲たとしても、勝てない事くらいは理解できているのだろう。


「ふっ、何も知らない新人を路地に連れ込んで強請る事はできても、それなりの実力のある冒険者には媚び諂う事しかできない、ゴブリンのような連中がいるからな。

 この辺りの領主殿に掛け合って、ゴブリン退治をしようと思っているんだ。

 今まで恐喝されてきた者たちの名前は分かったから、証言を取って罰を与える。

 恐喝の合計が小金貨十枚分を超えたら死刑だったな、間違っていなよな」


「……はい、確かにその通りですが、大丈夫ですか。

 強請り集りをしていたのはあそこにいる連中だけではありませんよ。

 いくらバルドさんでも、そんな連中全員に一斉に襲われたら……」


 受付嬢が小声で答えてくれた。


「ゴブリンごときが百頭二百頭集まっても同じさ、まとめて叩き殺してやるよ。

 襲ってきてくれれば正当防衛で殺せるから、領主殿の手を煩わす事もなくなる。

 俺としてはその方が手間がなくて助かるよ。

 だが、ゴブリン擬きの冒険者たちにそんな度胸はないだろうな。

 話しは戻るけど、この国のおとぎ話にワイバーン山脈を超える道の話しはないか。

 おとぎ話ではなく、軍や密貿易をしている連中が、隠し街道を使っていないか。

 そう言う情報があるのなら、高値で買うよ。

 隠し街道のの話しを、商人ギルドや製薬ギルドでも集めてくれるように頼んでくるから、情報を集めておいてくれ、頼んだぜ」

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