第13話:孤児院パーティー

 俺は密偵団の頭、フォレストから学んだ足音を消す走法で駆けた。

 同時にできるだけ気配を消す努力をした。

 スキルがあるわけでも魔術が使える訳でもないが、最低限はやれる。

 フォレストの密偵団だって、全員が隠形や消音のスキル持ちではない。

 普通の人間が努力で会得できる範囲の技があるのだ。

 俺はそれも学べる範囲で覚えているのだ。


 駆けつけた先には、顔見知りのシスターがいた。

 俺と同じように汗臭く獣臭い悪臭をプンプンさせた男に襲われている。

 その周りにはシスターが保護している孤児たちが五十人ほどいる。

 腐れ外道の手下たちだろう連中が、子供たちに剣を突き付けている。

 人質をとってシスターを嬲り者にするつもりなのだ。


「グッへへへへ、逆らえば子供たちを皆殺しにするぞ。

 逆らわなければ子供たちの命だけは助けてやる、命だけはな」


 下卑た頭目が獣欲丸出しの声色で口にしている。

 シスターを言葉でも嬲るつもりのようだ。


「そう、そう、そう、リーダーは御優しいから、命は助けてくださいますよ。

 まだガキでもそれなりの楽しめますからね。

 男も女ものね」


 腰ぎんちゃくにしか見えないクズが、尻馬に乗ってシスターを嬲る。

 こんなどうしようなく腐った国でも、子供たちを救おうとする人がいた。

 それなりに強力な魔術スキルを得たからできる事ではあるのだろうが、この国の常識なら自分の栄耀栄華にそのスキルを使う。

 それを、たった一人で子供たちを助けようとする素晴らしい女性がいた。

 子供たちが自立できるように、冒険者の経験を積まそうとまでしていた。


「こんな事をして、神様に恥ずかしくないのですか。

 貴方たちに天罰が下りますよ。

 今からでも遅くはありません。

 直ぐにやめるのです」


 シスターが腐れ外道を説こうとするが、無駄だな。

 俺も神様がいるなんて毛頭思っていない。

 人間など比べものにならない力ある存在はいるだろう。

 だがそいつは正義の心など持っていない。

 力があるだけで、この腐れ外道と同じように好き勝手に生きている。


「グッハハハハ、神なんぞいるものか。

 いればとっくに俺たちにも貴族たちにも天罰が下っているよ。

 今直ぐ分からせてやるよ」


 もう時間がないな。

 助けてやりたいが、敵はそれなりの実力を持つ冒険者が二十七人。

 不意討ちで五人くらいは殺せるが、その後は俺も嬲り殺しにされるだろう。

 戦闘スキルや魔術スキルを持った人間と、正面から戦っても勝てるわけがない。

 シスターを見捨てられるのなら楽だが、貴族の誇りがそうさせてくれない。

 だが、俺だって死にたがりの馬鹿ではない。


(バディ、パスカル)


 まったく何も情報のない謎スキルのバディ。

 バディの意味は仲間や相棒といったものだ。

 誰かを仲間に引き入れる事ができるスキルなのか、それとも、仲間を呼び出すことができるスキルなのか、それは分からない。

 順番に確かめるしかないが、今はそんな時間がない。


 もし仲間を呼び出すことができるスキルなら、パスカルをここに呼び出せる。

 仲間という制限がある下位互換のスキルではあるが、伝説の召喚スキルに近い。

 今ここにパスカルを呼び出すことができるのなら、状況は一変する。

 二十七人だろうが、この程度の連中などパスカルの敵ではない。

 鎧袖一触で皆殺しにしてくれる。

 パスカルが入浴中や同衾中でない事を願う。


 残念ながら、パスカルを呼び出すことはできなかった。

 だが、自分の身体が今までとは全く違い。

 身体中に力がみなぎっているのが分かる。

 明らかに何らかの効果があったのだ。

『バディ、パスカル』と心の中で唱えるだけでスキルが発動したのだ。


 ここでステータスを見る事ができたら便利なのだが、残念ながらできない。

 だがだいたい想像はつく。

 パスカルを呼び出す事はできなかったが、パスカルの力を借りれるのだろう。

 問題は何割くらい借りる事ができるかだ。

 十割借りる事ができれば、とてつもない力を発揮する事ができる。

 だがその代わり、まったく使った事のない莫大な力を制御しなければいけない。


「グッハハハハ、神には会わせてやれないが、天国にはいかせてやるよ」


 考えている時間も練習している時間もない。

 それに、どれくらいの時間、パスカルの力を借りられるのかもわからない。

 少しでも早く、短時間にかたずけないといけない。

 まずは、一番手前の奴の心臓を一撃で貫く。

 首を裂いてしまうと、切り口から急激に空気がもれて笛のように音が響く。

 だから、肋骨に当たらないように少し下から心臓を刺し貫く。


 二人目三人目四人目と、瞬きをするくらい短い時間に殺していく。

 信じられないくらい身体が軽く、一瞬で次の敵に向かう事ができる。

 しかも完璧に身体を制御する事ができている。

 心配していた慣れない力に振り回される事もない。

 これがスキルの力かと思うと、軽く嫉妬を感じてしまうが、これからはバディからならスキルを借りる事ができる。


「な、だれ」


 俺は真直ぐにシスターを助ける道を選んだ。

 一番安全なのは、シスターが嬲り者になっている間に、後ろから順に敵を殺す事。

 そうすれば、背後から襲われる心配もない。

 だが、それではシスター身体を穢されてしまう。

 貴族ならば、貴婦人の名誉は命懸けで護らなければいけない。

 まして相手は内心がアバズレの腐った貴族令嬢ではない、本当の貴婦人なのだ。


「ぐっ、はっ」


 シスターに乗りかかろうとしていた腐れ外道の心臓を背中から刺し貫いた。

 鉄製のアーマープレイトを装備していたが、下半身は丸出しの情けない姿だ。

 そのアーマープレイトを俺の剣が楽々と刺し貫く。

 首を刎ねる方が剣が痛まないのだが、そんな方法だとシスターが血塗れになってしまうから、殺し方も配慮しなければいけない。


 そのままシスターに手を差し伸べて助け起こせれば絵になるのだが、まだ駄目だ。

 孤児たちを人質にしている腐った連中がいる。

 孤児たちを助けて安全を確保するまでは、シスターに優しい言葉もかけられない。

 それと、孤児たちを助ける方法も気をつけないといけない。


「目をつむれ!」


 俺は裂帛の気合を込めて孤児たちに向かって言葉をかけた。

 公爵家に伝わる名剣とはいえ、アーマープレイトの上から斬り続ければ、刃こぼれをおこして使い物にならなくなってしまう。

 胴の部分とヘルメットの部分の間に剣を入れて、跳ね飛ばすのが一番いい。

 だがそうなると、当然だが血が噴水のように噴き出してしまう。


 そんな凄惨な殺戮現場を、まだ幼い孤児たちに見せる訳にはいかない。

 それでなくても、自分たちを助け育ててくれるシスターが襲われるところを、腐れ外道共に見せられていたのだ。

 これ以上精神的に傷つける訳にはいかない。

 同時に、そんな腐れ外道共を許すわけにはいない。


 キッチリとここで皆殺しにして、もう二度と同じような犠牲者を生まないようにするのが、力を持つ者の責任だ。

 俺は真っ当な人間だから、犠牲者を更に傷つけて喜ぶ趣味などない。

 犯罪者に温情をかけて人気取りをして、被害者とその家族を踏みつける気はない。

 正義の味方面して、犠牲者を更に傷つけて快楽をるような腐れ外道じゃない。

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