第11話:ギルド強制依頼
「今いるメンバーは全員強制参加だ。
今さっきお貴族様から採集依頼が入った。
なにも聞くな、名前を明かせるような小者のお貴族様じゃねぇ。
誰の依頼か探ろうとした時点で、一族皆殺しになると思え。
お前達に残された道は二つしかない。
依頼されたシルバーリザードを狩って戻ってくるか、ダンジョンで死ぬかだ。
手ぶらで帰ってきたら殺されるからな」
今日初めて顔を見た、迷宮ダンジョン冒険者ギルドのマスターが、俺たちに死の宣告をしやがった。
冒険者になってまだ二十日しか経たない俺でも、並の攻撃が全く通じず、一撃で強固な盾役を殺してしまう、強大なシルバーリザードの噂は聞いている。
現在迷宮ダンジョンのトップパーティーが潜っている最深部にいるボス魔獣だ。
だから、トップパーティーなら全く狩るのが不可能と言う事はないだろう。
彼らが狩ってくれるまで、どこかに隠れ潜んでいればいい。
「はっきり言っておく、俺はお前たちを犠牲にして生き残るつもりだ。
最深部まで潜っていた連中が全滅した。
シルバーリザードに皆殺しにされたのだ。
俺はお貴族様に次のパーティーが育つまで待って欲しいと言った。
だがお貴族様は認めてくれなかった。
冒険者全員を犠牲にしてでも、シルバーリザードの皮を取ってこいとの命令だ。
逆らえば、皇国軍を動員して、ここの冒険者を皆殺しにすると言われた。
だから、お貴族様が諦めるまで狩りを続ける。
本当に全員死に絶えるまで続けさせられるのか、ある程度の犠牲で諦めてくれるのか、それは俺にも分からんが、やるしかない。
生き残りたければ、なんとしてでもシルバーリザードを狩ってこい」
ああ、ああ、ああ、この国の貴族は最低だな。
今集まっているメンバーでは、最深部にまでたどり着けるかどうかも分からない。
いや、その半分の深さまで潜るのも不可能だろう。
トップパーティーは全滅したようだが、彼らと競っていたパーティーがいるはずだから、その連中に俺たちをつけて狩りをさせればいいと考えているのだろう。
まあ、俺たちを囮にして狩るをする事になるだろうけどな。
「話が分かったら、さっさとダンジョンに潜れ。
後から集まってくる連中も順次ダンジョンに潜らせる
ダンジョンから戻ってきた連中も、休憩させたら直ぐに潜らせる。
できるだけ体力を温存して、後から来る連中と連合して潜れ」
ギルドマスターは、冒険者全員が一致団結して狩りに向かえば、わずかな確率でもシルバーリザードを狩れるかもしれないと思っているようだ。
俺と同じように、セカンドパーティーに期待しているのかもしれない。
だが、今俺の目に見える範囲にいる冒険者では、期待するだけ無駄だろう。
どいつもこいつも、どうやって逃げだすかしか考えていない。
こんな連中に巻き込まれて死ぬのは嫌だな。
「ちょっとどいてくれよ、ダンジョンに潜らせてもらうからな」
俺がそう言ってダンジョンの入り口に向かったら、ダンジョンに入らずにグズグズしている連中が、裏切者を見るような目を向けてきやがった。
全員が無言の抵抗をしてダンジョンに入らなければ、マスターが考えを変えるかもしれないと期待しているようだが、そんなうまい話などない。
あれだけ皇位継承と内乱で苦しんできたのに、まだこの国の貴族たちの身勝手さがまだ分かっていないようだ。
「ダンジョンに入るまでにケガなどしたくないんだよ。
ダンジョンに入ってさえしまえば、皇国軍など怖くない。
エリートずらした皇国軍の連中が、冒険者ごときを殺すために、ダンジョンに入ってくる可能性は低い。
ダンジョンの中で隠れているほうが安全なんだよ」
憶病で卑怯な冒険者を助ける義理などないが、立場の弱い人間が、貴族の誇りを持たない下劣な奴に殺されるのを見るのは嫌だ。
だから分かりやすく生き延びる方法を教えてやった。
一旦ダンジョンの中に入ってしまえば、身勝手な貴族も、直ぐに皇国軍を使って冒険者を皆殺しにしようとはしないはずだ。
どれくらい日数がかかるかは分からないが、横暴な命令を下したら、敵対勢力の貴族がそれを権力闘争に利用しようとするはずなのだ。
俺の直接の言葉や、言外に含まれた意味を理解できる程度には知性のある冒険者が、俺に続いてダンジョンに入ってきた。
皇国軍に追い立てられて、どこかにケガしてからダンジョンに入ったら、生き延びられる可能性が低くなってしまう。
皇国軍や貴族の私兵が、ダンジョンに中に入ってくる可能性も皆無ではないから、できるだけ深くまで潜って自給自足しなければいけない。
そのためにもダンジョンに潜る冒険者は多い方がいい。
「おい、あんた、あんたは低層専門もソロだったな。
こんな状態だ、臨時で家のパーティーに加わらないか?」
見た事もないパーティーが声をかけて来てくれた。
気配から察する感じでは、中堅どころのパーティーだと思う。
現時点で中層と呼ばれている辺りを狩場にしているパーティーだろう。
「いや、せっかくの申し出だが、普段連携をしていない者がパーティーを組んでも、逆効果になって危険だと思う。
ここは普段のように、現場でパーティー同士が助け合う形にする方がいい」
俺はまだこの国の冒険者を信用することができない。
いや、彼らが生きてきた環境を思えば、倫理観が違って当然なのだ。
彼らにとって、俺は仲間ではない。
時には仲間でも生き残るために裏切るのがこの国の常識だ。
誰よりも大切にするのか家族であり、その次に一族だ。
家族や一族でパーティーを組んでいるのなら、俺は一番先に切り捨てられる。
「確かにその通りだが、だったらどちらが先陣で潜るんだい?」
俺は一人だが、彼らは七人いる。
対等のパーティーとしてダインジョンに潜るのなら、俺は七人分の働きをしなければいけないが、そんな気は毛頭ない。
「俺は深くは潜らないよ。
皇国軍が本当に来るかどうか分からないんだ。
いつも通り安全な低層で食料を狩って時間を潰すさ。
アンタらは、自分が一番安全だと思う辺りまで潜ればいい。
魔獣や魔蟲に殺される可能性がなく、皇国軍が潜ってこない深さでね」
「……なるほどね、そこまで腹をくくっていたのか。
最悪、本当に皇国軍が潜ってくるまでダンジョンに潜む気なんだな」
ようやく俺の作戦を理解してくれたようだな。
「そうだよ、最悪死ぬまでここで暮らすつもりだよ。
何年になるのか何十年になるのかは分からないけどね」
「分かった、だったら俺たちは先に行かせてもらうよ。
お貴族様が諦めたり没落したりしたら、新たな冒険者が教えてくれるだろう。
色々と教えてくれた君には、お礼を言っておくよ。
お陰で生き延びられそうだ」
「気にしないでくれ、お貴族様の気まぐれで殺される人を見るのが嫌だっただけだ」
さて、俺は賭けに勝てるのかな?
それと、本当に皇国軍はダンジョンに入ってこないのかな?
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