第7話:救出部隊
「ギャアアアアア」
「襲撃だ、敵の襲撃だ」
「グッハッ」
「格子を落とせ、鉄格子を落として奴隷を逃がすな!」
この奴隷商館を襲撃した者がいるようだ。
同じ奴隷商人の商売敵が襲ってきたのか。
それとも家族を奴隷にされた者が奪還のために襲ったのか。
色々な可能性が考えられるが、ここを襲って奴隷を逃がすのは至難の業だ。
そんな事はわずか一日様子を見ただけの俺にでもわかる。
そんな事はこの国に住んでいる人間なら嫌というほど理解しているだろう。
どう考えてもこの国の人間ではなく、俺を助けに来た人間としか思えない。
恐らくは俺の専属護衛たちが、これ以上時間をかけられないと判断したのだろう。
俺のためにも、パスカルたちが無茶をしなければいいのだが。
「バルド様、お助けに参りました」
やはりパスカルたちが俺を助けるために襲撃してくれたのだな。
俺としては普通に身代金を払ってくれた方が、パスカルたちが死傷するような事がないので、安心できるのだが。
「大丈夫なのか、ここの戦力は半端ではないぞ。
表にでている戦力だけでなく、隠された戦力も多そうだ。
最悪この国の軍と連絡を取っているかもしれないぞ」
「ご心配に入りません、この奴隷商館の戦力は以前から調べてありました。
グリンガ王家が密かにビシュケル王家と接触している事も分かっていました。
ビシュケル王家が、グリンガ王家と我がノルベルト公爵家を天秤にかけている事は、以前から分かっていましたので、念入りに事前調査をしておりました。
普通に身代金を払おうとしたら、金だけとられてバルド様が殺されてしまいます」
「さすがノルベルト公爵家の裏仕事を仕切っているフォレストの嫡男だ。
弱冠十六歳の若さで、暗殺と謀略の実戦部隊を一つ任されるだけの事はある。
配下の者たちも見事な仕事をしてくれている。
だが、それでも、人数差や戦力差はどうしようもないのではないか。
俺を追いかけてくれていた人数だけで大丈夫なのか?」
俺はパスカル個人だけでなく、パスカルの父親も配下も同時に褒めた。
よく働いてくれた時には、惜しみなく褒めるのが主人の役目だと思っている。
同時に疑問点や心配な所もはっきりと言っておく。
「大丈夫でございます、安心されてくださいバルド様。
バルド様のスキルが謎スキルだと分かってから、臨戦態勢を整えておりました。
バルド様が王宮に呼び出された時点で、手空きの百人が動員されました。
追放刑にされたバルド様の後を百人で追いかけておりました。
今頃は王都屋敷も臨戦態勢をとっておりますし、領地も戦時体制になっています」
情けない話だが、俺などまだまだだな。
全ては王佐スキルや参謀スキルを持った家臣が提案し、名君スキルを持った御爺様が決断されたのだろうが、謎スキルしかない俺ではその跡を継げそうにない。
父上は能臣スキルをお持ちだから、当主として最適のスキルではないが、家臣さえ忠誠心を持って仕えてくれたら、十分公爵家を繁栄させる事ができるだろう。
問題は弟たちが公爵家当主に相応しいスキルを授かるかどうかだな。
「バルド様、敵の援軍が来る前に急いで逃げませんと」
この緊急事態に惚けていた俺を、パスカルが軽く叱ってくれた。
情けなくも現実逃避してしまっていたようだ。
「分かった、案内を頼む」
目隠しされて特別室まで連れてこられたので、逃げ道が分からないのだ。
「お任せください」
パスカルが自信満々で先に立って案内してくれる。
幼い頃から俺の学友として側にいてくれていたのがパスカルだ。
いや、パスカルだけがいてくれたわけではない。
親しさに差はあったが、入れ代わり立ち代わり、総勢二〇〇人はいた。
俺が七歳の時から、前後五歳くらいを基準にどんどん学友がつけられていった。
哀しい事だが、十四歳に与えられる神授のスキルによって遠ざけられる者もいた。
俺と同じように外れスキルを授けられた者は、学友や側近から外されるのだ。
そんな中でパスカルは代々忍者スキルを持つ男女が夫婦となったきた一族だ。
完全にスキル重視の結婚だが、この世界では普通の事だ。
特に王侯貴族や士族、職人や商人は跡継ぎの問題がとても大きい。
家を継ぐための子供を産む相手はスキル重視で選んで結婚する。
好きな相手とは子供を作らない愛人関係になるのがこの世界の常識だ。
そこまでしても、大貴族の跡継ぎに相応しいスキルを持った子供はなかなか生まれず、士族家に養子に出されたり嫁入りさせられたりする人が続出する。
そんな中で一族の九割が忍者スキルを授かるパスカルの一族は凄い。
ノルベルト公爵家もパスカルの一族に協力してもらって研究をしているが、まだその成果は表れていない。
俺が公爵家を継ぐのに相応しいスキルを授かっていたら、パスカルはずっと側近くに仕えてくれていただろうが、弟たちのスキルによって変わってくる。
弟の中に公爵家を継ぐに相応しいスキルを授かる者がいれば、パスカルはその者の専属護衛に役目が変えられるだろう。
もし弟妹の誰一人、公爵家を継ぐに相応しいスキルを授からなかったら、一族の子弟の中からマシな者が養子に向けれられ、パスカルが専属護衛になる。
正直寂しい話だ。
「この鉄格子を上げるまでお待ちください」
考え事をしながら逃げていたが、今までは事前に元の位置に戻されていた落下式の鉄格子が、落ちたままの場所があった。
奴隷が逃げられないように、非常時にだけ落とす重く頑丈な鉄格子だ。
同じように重く厚く頑丈な鉄扉は全て鍵が明けられていたので、何の問題もなく通過できたのだが、ここの鉄格子だけは落下したままになっている。
廊下が少し広くなっていて、数十人が動けるだけのスペースがある。
とてつもなく嫌な予感がする。
「がっはっはっはっは、ここがお前らの墓場だ。
これでノルベルト公爵家が先にグリンガ王国に攻撃をしかけた事にできる。
愚か者が陛下の策に引っかかりおったわ、がっはっはっはっは」
筋肉だるまとしか言いようがないむさくるしい大男が、百人くらいの配下を連れて隠し扉から現れ、俺達をバカにするように嘲笑いながら話しかけてきた。
奴隷商人の言動がおかしかったのは、最初から俺を囮にしてノルベルト公爵家の刺客を呼び込み、開戦の口実にするためだったのだな。
まずい、これはあまりにも不味過ぎるぞ。
味方から一人の犠牲者を出さず、全員で逃げ延びるなど現実的に不可能だ。
「バルド様、もはや手加減は不可能でございます。
奥の手を出して皆殺しにいたしますので、離れていてください」
いったい何をする気だパスカル?!
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