第2話私は何も言わずにその場を去ってしまった

 今日私は人生最大の出来事に遭遇しようとしている。

 それは大好きな富良野良ふらのりょう君から体育館裏に呼び出しがあったのだ。

 え、なに今日私死ぬの。

 死んじゃうのかな。

 朝学校に着いたらいきなり言われるんだもん。

 嬉しすぎてどうにかなっちゃうって。

 

 ながったらしい先生の挨拶が全て終わったら、いよいよ体育館裏に向かった。

 思わず嬉しすぎてスキップをしてしまっていた。

 

 物陰から覗くと、既に良君は来ていた。

 自分の身なりを手鏡で確認して整えると「私は可愛い」とボソッと呟いた。

 そして胸に手を置くと心臓が小刻みに『どっくんどっくん』と脈打っていた。 

 ヤバイ私めちゃくちゃ緊張している。

 ここでこうしていてもしょうがないので、私は意を決して物陰から飛びだした。

 

 良君の目の前に立つと自然と目が合い、心臓の鼓動がよりいっそう早く動いていた。

 5分、10分と時間が経過しても、良君は何も言葉を発してくれない。

 なんでなにも言ってくれないの。

 まさかただの暇つぶし。

「あのー何ですか?私そんなに暇じゃないんですけど」

 言っしまった。

 私ったら緊張するとついつい言葉がきつくなってしまう。

 嫌われたかな。

 良君は今だになにも喋らないし。

 私は思わずため息を漏らして良君の前から立ち去ってしまった。

 私の悪い所はさっきの言動もそうだが、態度も悪くなってしまう。

 これで私の青春は終わりかな。


 校門の前に向かうと、昔からの幼なじみ赤嶺京子あかみねきょうこの姿がそこにあった。

「どうだった?」

「ダメだった」

「え、なんで?」

「私のいつもの悪い癖がでちゃって」

「もうせっかくのチャンスを何やってるのよ」

 私はがっくりと肩を落としていた。

「大丈夫。高校になったらまた新しい出会いがあるわよ」

 京子は私の項垂れている肩をガシっと掴み一緒に帰宅した。

 こうして私の中学生活は幕を閉じたのだ。


「お姉ちゃんそんなぐうたらな生活してていいの?」

「いいのいいの」

 ただいま私は妹の皆藤南かいとうみなみに絶賛怒られ中。

「だって春休みだよ。受験も推薦で通ったから勉強だってしなくていいし」

「そんなだとまたチャンス逃しちゃうんじゃない」

「別に大丈夫でしょ」

 とは言ったものの一応トレーニングはしとかないと。

 私はスクワットを始めた。


 すごい人。

 人の隙間をすり抜けると掲示板が見えてきた。

 そっかーみんなこれを見ていたんだ。

 春休み明けの始めての高校生であり、新学期でもある。

 興味あるよね。

 

 掲示板に私の名前が書かれたクラスを発見すると、中学時代大好きだった富良野良君の名前も書かれていた。

 これは奇跡か。

 もしかして神が私にもう1度だけチャンスを与えたくれたのか。

 良君が私に気付いてくれるように、先に教室に向かわなくては。

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