1度だけでいいんで、彼女になってくれませんか

てるた

第1話俺は何も言えず女性を見送った

「………………」

「あのー何ですか?私そんなに暇じゃないんですけど」

 彼女は怪訝そうな目で俺を見ていた。

 ただ今俺、富良野良ふらのりょうは体育館裏で中学校卒業当日に女の子に告白しようとしている。

 しているのだが何1つ言葉がでない。 

 頭が真っ白になっている状態と、ただでさえ女の子を目の前にすると喋れないのに。

 何にも言葉を発しない俺を見限り、目の前の女の子はため息をついて俺の所から離れていった。

 だが、ひと言何か言えばまだ間に合う距離。

 言うんだ。

 言うんだよ俺。

 人生を変えるんだろ。 

 そんな考えも虚しく女の子はどんどん距離が遠くなっていった。

 握りこぶしを作り行こうと一歩踏み出したが、その足は次の一歩を踏み出す事はなく、女の子の姿は完全に見えなくなった。

「フラれた」

 と呟き1人虚しく空を見上げると、片方の目からツーっと涙が出ていた。


「どうだった?」

『卒業おめでとう』

 と書かれた校門の前に向かったら悪友の、坂下友さかしたともが話しかけてきた。

 俺は首を横に振った。

「まぁ皆藤真奈美かいとうまなみは俺達全中学生徒のアイドルだし基本的に無理だろ。でも誘って体育館裏に来ただけでも奇跡だと思うぜ」

 よく考えたらそうだった。

 何であんなアイドルが俺なんかみたいな奴の誘いを受けたのが、疑問に思ったんだよ。

 1番考えられるのはモテない男が、どんな告白をするかみたいんだという、モテる女の贅沢な遊びだと思うがな。

「貴族な遊びに付き合わされただけだと思うがな」

 坂下はポカンとした表情で俺を見ていた。

「まぁでもこれで2度と坂下とは会う事はないんだから、次の出会いに期待しようぜ」

「そうだね」

 こうして富良野良の中学校生活は幕をとじたのだ。


 それにしてもすごい数だな。

 校門の前に自分の教室がどこかと確かめる為に我先にと生徒が群がっていた。

 その中に1人だけ神々しく輝く女子生徒が1人掲示板を覗いていた。

 人混みの中でも芸能人だけが異彩を放ってるというあれだ。

 その人物をよく確認すると、見た事がある人物、皆藤真奈美の姿だった。

 あれ、坂下の奴皆藤とはもう2度と会わないとか言ってなかったっけ。

 しかも坂下の姿を今日まだ見てないのだが。

 皆藤が掲示板から移動を開始したら、男子生徒がぞろぞろと移動した。


 さてと俺も掲示板を確認すると皆藤と一緒のクラスになっていた。

 こういうのを巷では運命と言うのだろうな。

 神は俺にもう1度フラれろと言っているのか、それとももう1度泣けと言っているのだろうか。

 どうもここ最近物事をポジティブに考えられないので、心が病んでいる証拠だ。

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