ドキドキ配達員〜自粛中に突然美少女が訪ねてきた件について〜

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自粛中に突然美少女が

カーテンの隙間から差し込む朝日が目に入り、ぼやける意識が徐々にはっきりとしていくのを感じる。


「ふぁ〜あ」


眠気まなこを擦りながら上半身を起こし伸びをした。


「もう10時か…… 流石にちょっと寝過ぎたかな」


ベットに腰掛けてしばしぼんやりと今日の予定について思い出す。

最近とある感染症の流行で自粛する羽目になり、友達とオンラインゲーム三昧の自堕落な生活を送っていた。

今日は楽しみにしていたゲームが届く、友人と一緒にプレイする約束をしている。時間指定は午前中のはずだから届くのはそろそろだろうか。そんなことを漫然と考えて、ボーッとしていると呼び鈴が鳴る。


――ピーンポーン


「は〜い」


適当に返事をして玄関に向かおうと思ったが、寝巻きのままであることに気付き慌てて着替えに戻る。

適当なTシャツとジーパンを履いて玄関に向かった。

ドアの覗き穴から配達員かどうかを確認する。そこには、帽子を深く被った細身の女性配達員が立っていた。顔はよく見えないが大丈夫そうだ。

そう思いドアを開けて歓迎する。


「すみません、待たせちゃって。さっき起きたばかりなんですよ」


つい余計なことを言ってしまったが、笑って誤魔化す。いつも余計な一言を言ってしまうのは俺の悪い癖だ。


「いえいえ、仕事ですから」


そう言って配達員は、帽子をくいっと持ち上げながらこちらの目を覗き込むように返事をした。


「えっ」


その配達員の女性の顔を見た瞬間、驚いて声を上げてしまった。

彼女は同じ大学でミスキャンパスに選ばれた超絶美少女「黒川姫花」だったのだ。

若干垂れたような優しげな目元につんと高い鼻緒。香り立つような薄桃色の瑞々しい唇が視線を惹きつける。

艶やかの黒髪は清楚然とした印象を与え、これぞ大和撫子といった感じだ。突然の美少女との邂逅に脳がキャパオーバーを起こしたのかショックを受けたように呆然と立ち尽くす。


「どうしましたか?」


すると彼女は突然黙り込んだ俺を不審に思ったのか声をかけてきた。その声に反応して再起動するように声を出す。


「えっ、あっ、えっと」


しかし、真っ白になった頭では思ったように話すことができず、無為に声を出し続け、顔が赤くなる。突然自分が思春期の男子になったような錯覚を覚え気恥ずかしさを感じる。

何を話せばいいのかとパニックになっていると突然目の前から堪えたような笑い声が聞こえてくる。


「ふふふふふ」


彼女が笑っていたのだ。すると彼女の楽しそうな笑い声がうつったのか、緊張が徐々にほぐれていくのを感じた。改めて、落ち着くためにふと一呼吸置いてから話はじめた。


「ごめん、あなたと同じ大学でミスキャンパスの時に見かけたことがあるから。驚いたんだ」


冷静になった俺は、言い訳をしながらどうにかこうにか話を進める。


「ふふ、気にしないで。私もあなたのことを知っているわ」


心臓が跳ねた。彼女は妖しく微笑みながらそう答える。はて、俺は彼女と話したことがあっただろうか。


「あの……、どこかで会ったことありましたっけ?」


つい気になってしまい、失礼だとは思ったが率直に尋ねることにした。


「そうね……、秘密よ」


彼女は少し暗い顔で視線を落として俯いた後、勢いよく顔をあげ人差し指を唇の前に持っていった。

もしかしたら、大学に入学する前から彼女とあっていたのだろうか・。記憶の中に彼女と一致する顔は出てこない。


「それじゃあ、これ! サインはいらないから」


そう言って、彼女は届け物の箱を押し付けるように差し出して足早に此処から去ろうとする。


「待ってくれ!!」


俺はこのまま行かせてはいけないと感じて咄嗟に止めてしまう。しかし、冷静に考えれば彼女は仕事中でありあまり引き止めてしまうのはよくない。


「あの、もっと話したいから、連絡先を交換してくれないか」


ついナンパのような言葉が出てしまったが、これは案外いい考えじゃないかと思い直し、真剣に彼女の背中を見つめて待つ。

すると彼女は小走りに戻ってきてメモを渡して来た。


「いつでも待ってるから……」


そう耳元で囁いてから、今度こそ部屋の前から去っていき見えなくなった。

平凡な毎日が変わりそうな予感がした。

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