空っぽのカップ

「………っ。」


思わず涙が落ちそうになって、なんとか必死で我慢する。斜め向こうの席で女子高生たちは相変わらず楽しそうに盛り上がっている。


どうしてこんなに鮮明に、まるで昨日の事のように思い出してしまうのだろう。


ゆうちゃんとのはじまりは最悪で、最高に甘ったるくて、多分一生忘れられない。もうあれから3年も経つのに。


あたしは空っぽのカップを二つ持ち、仕方なく立ち上がった。帰ろう。駅まで遠いけど、ゆっくり歩いて帰ろう。


———————————————————————


車のドアを勢いよく閉めて、エンジンをかけながらふっと思った。


さやはどうやって帰るんだろう。


ここから駅はちょっと距離があるし、せめて帰り道だけでも送ってあげれば良かったのかも。

でも今更何を思っても遅いよなぁ、仕方なく車を発進させる。


大人げなくて、短気な自分がほんと情けない。だからフラれたのかもしれない。でも男が出来たってなんなの。いきなりすぎる。普通にうまくいっていた気がしてたのは俺だけ?

最後に部屋に来たのは確か2週間前だった。あの時は本当に珍しく手料理をしてくれた。さやが料理する姿なんて初めて見たし、あんまり美味しいからうっかり「結婚しちゃおっか。」なんて言いそうになって辞めた。そんな急に結婚とか言われても引かれちゃうかもしれないって。でもあの時、ちゃんと言ってればこんなことにならなかったのかも。いや、ダメでしょう男がいる奴にそんな事言っても困らせるだけじゃん。やっぱ言わなくてよかった。

でも、おかしいな。そもそもあいつの彼氏って俺じゃなかったっけ?付き合おうって言ってなかったんだっけ?あれ?


「マジかぁぁぁ。なんなの?女ってなんなの。」


頭の中がぐしゃぐしゃする。泣きたい。本当に泣いちゃうかも。絶対、この後普通に過ごせない。曲作りとかできる心境なんかじゃない。俺だって遊んでたかもしれないけど、最近は全然そんな事なかったし。まさか、急にさやを失うなんて思ってもみなかった。


———————————————————————



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る