始まりは、
ゆうちゃんに出会ったのは大学2年生の頃だった。
同じ大学で仲の良いメンバーで何となく自然と集まって遊ぶようになって、その中にゆうちゃんも居た。
その時ゆうちゃんは4年生で、もう何かの仕事を既にやっていて就職する必要もないみたいな風に言っていて、どこかふわふわしていた。
みんなと居る時は一番盛り上がって大騒ぎするのに、気がつくとどこにも居なくて探すとどこかで一人ポツンとしていたりして。よく分からないけどなんか気になる存在だった。
海とか遊園地に行ったり、バーベキューをしたりキャンプをしたり、とにかくあたしたちはみんなでつるんでよく遊んだ。先輩後輩関係なく仲良くて。ゆうちゃんは先輩なのにちょっと抜けてて結構いじられやすくて、だけど面倒見も良くて人気があった。
可愛い顔をしているから女の子にもモテるタイプだし、実際遊んでる感じだった。
ちょっと気を抜いたら好きになってしまうかもしれない。だけど報われないんじゃないだろうか。
そんな「何か」を感じ取って、あたしはあえてゆうちゃんから距離を置いていた。
多分、そう思い始めた頃から好きになってしまっていたんだと思う。
「飲みすぎたーーーー。」
ヘラヘラしながらおぼつかない足取りであたしたちは駅へと向かう。
遊園地で1日遊んで、そのまま居酒屋でみんなで飲んだ帰り道。殆どみんな泥酔状態。
前月成人したあたしも調子に乗って慣れないビールを2杯も飲んでしまった。ちゃんと家まで帰れるのかよぎる不安がありつつも楽しい気持ちが勝っている、そんなおかしなテンションだった。
遊園地の最寄りの駅から上り電車に乗り込んで、途中乗り換えで殆どのメンバーが降車する。
「バイバーイ。」
「また来週ねーー。」
手を振って、扉が閉まって、車内に目線を戻すとあたしの前の席に座るゆうちゃんと目があった。
車内は空いていて、他のメンバーはいつの間にか誰もいなくてあたし達は気がついたら二人きりだった。
ゆうちゃんは立ち上がり、あたしの隣に座った。
ニマニマした笑顔で見つめられて、うわぁ…と思った。こんなに近くでこの人の顔を見たのは初めてかもしれない。眠そうな垂れ目の大きな目。ベビーフェイスとはこうゆうものか。
「家、どこ?」
「…仙川。」
あ、なんか良くない雰囲気かも。と咄嗟に思った。
「一人暮らしだったよね?」
「え?」
一人暮らしのあたしは何とこたえていいものか悩みながら目だけで笑ってみせた。確か、もうあと2駅で着いてしまう。
「行っていい?まだ飲み足りないでしょ?」
いや、だめでしょう。かろうじて生きてる理性から咄嗟に出る危険信号。断ろうと思う自分もちゃんといる。それなのにあたしは呑気に、部屋は綺麗だったっけ?と、朝の記憶を辿り始めていた。
脱いだパジャマはどこへ置いた?洗い物は残っていない?トイレは?お風呂は?下着は干しっぱなしじゃないかな?
「明日は俺、午前中から予定あるし朝早く帰るから。朝まで飲もう。」
数分後、有名なマヨネーズのCMソングが鳴り響くホームに、あたしとゆうちゃんは一緒に降り立っていた。どうしてこうなっちゃったんだろう?
ずっと気になっていた男の人が、あたしがいつも使っている駅の改札を抜けていく。ゆうちゃんの後ろ姿を不思議な気持ちで追いかける。
駅から家に向かう途中のスーパーで、お酒とお菓子を買い込んで。「ワインでも飲んじゃう?」とのせられて飲んだことのないスパークリングワインを選んでもらって。夜の商店街を並んで歩いた。
「俺、笹塚住んでるけど仙川初めて来た。」
「笹塚なんだ。」
そんな近くに住んでいるんだ、と思わず嬉しくなる。
今まで色んな所へ一緒に行ったけど、2人きりになるのは初めてかもしれない。酔っているせいか、2人きりという事実にいまいち実感が湧いてこない。
マンションに着いてエントランスでエレベーターを並んで待っていてもまだ信じられなかった。
「なんかいいとこ住んでるね。」
「そうかなぁ?」
上京する時、心配した両親は大学に近くて一番治安の良い街を調べまくってくれた。全然東京に詳しくないのに。『絶対にオートロックでモニター付きインターホンのある部屋じゃないとね』と、ここを探してくれた。それなのに、あたしときたら今日は自ら男を連れ込んでいる。
エレベーターに乗り込んで音のない狭い空間に並んで2人で立つと何か少しだけ後悔の気持ちが生まれてきた。今まで女友達しか入れた事のない部屋に、許しちゃったあたしはやっぱり間違えてのるかもしれない。覚悟も何もないくせに。
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