第15話 宝箱

 採掘作業を遮るように言われたので、少しびっくりしたけど、確かにRPGではお約束といえる宝箱だ。


《ちょうど今、ポップアップしたのです》

(え、どういうこと?)

《ダンジョン内の宝箱には、決まったところに置かれたものと、ランダムに発生するものの2種類があるのです》

(じゃあ、本当にこのタイミングで、この場所にポップアップしたってことね)


 ダンジョン第1層から第4層まで進んできて、はじめて宝箱を見つけた。


 中身は何だろう。


 最初に考えることなんて決まっている――と、思う。

 でも、少しずつ疑問も湧きだしてくる。


 宝箱に擬態した魔物とかいるのかな。

 第1から第3層にも宝箱って出るのかな。

 第3層だと、海の中に宝箱があったりするのかな。だったら、どうやって見つけて、どうやって開くんだろう。


 視界の中心に宝箱を据えて、ゆっくりと歩きだす。


 武器だとか防具だとか入ってるのかな。

 武器だとしたら、私の職業に合うものが入ってるといいな。

 あ、防具って可能性もあるよね。

 魔力回復薬だとか、解毒剤のようなアイテムの可能性もあるのか。

 とにかく、中身は開けてみればわかるけど……


《心拍数が上がっているのです》


 あと数歩で手が届くところまできて、ナビちゃんに警告された。


(あ、ほんとだ)


 視界に表示されている心拍数は120bpmを超えていた。

 無酸素運動などをすれば軽く超える値だけれど、背もたれを倒したゲーミングチェアに安静な姿勢で寝転がっている状態なので、PUTと連動してナビちゃんが警告してくれたんだね。


《まずは心を落ち着けるのです。宝箱に罠がかけられていることもあるのですよ》

(そうだね、慎重にいかないと)

《違うのです。先ずは、罠察知や罠解除ができるスカウターになるのですよ》

(はい、そうですね……)


 知らずに自分の焦りを隠すためか、ナビちゃん相手に敬語が出た。

 同時に、装備はスカウトセットSに一瞬で切り替わる。


 えっと、罠は罠察知で事前に調べるとして、宝箱に擬態したモンスターだったらたいへんだけど、鑑定って効くのかな。


  <鑑定>

  名前:宝箱

  説明:ダンジョンが生み出す神秘。宝石や武器、防具、魔法薬や

     お金など様々なアイテムが入っている。

     罠や擬態したモンスターであることもあるので注意しよう。


(え、擬態したモンスターに鑑定が効かないの?)

《鑑定で擬態モンスターはわかるのです。説明は、注意を促す内容になっているだけなのですよ》

(じゃあ、この宝箱は……)

《罠があるかもしれないけれど、擬態したモンスターではない、ということなのです》


 私はホッと息をつき、宝箱に向けて右手を伸ばす。


 <罠察知>


 罠察知のスキルを使うと、宝箱を中心にホログラムのように円筒状のものが視界に映し出され、円筒の底が光って消えた。


(ん、罠はないってことかな)

《そのとおりなのです》


 じゃあ、安心して宝箱を開ければいいんだね。


 宝箱の前に移動して、その蓋に手を伸ばす。

 蓋に触れたと同時、カチリと蓋が外れる音がした。私はそのまま片手で蓋を跳ね上げるようにして開いた。

 宝箱の中が白く発光し、中から首飾りのようなものがインベントリに吸い込まれていった。


《アイテムを入手したのです》


 ナビちゃんの声が聞こえると、私はインベントリを開いて入手したアイテムを探した。

 インベントリは全体タブと、装備や回復薬、素材、食べもの等に分類されたタブがあるんだけど、だんだんアイテムが増えてきたせいもあって探しにくい。特に今のように何がインベントリに入ったのかハッキリとわからないものは、タブで探しにくい。だから、全体タブで探したいんだけど、基本的に入れたのが古いものから順に表示される。ずっとインベントリの中に放置されているアイテムが増えて来たし、初期装備やビギナーシャツのような不要になったものもあ。


(インベントリの一番下まで移動するのがたいへんになってきた……)

《並び順を変更できるのです。アイテム名、格納日時、種類などのキーで昇順、降順にできるのですよ》


 インベントリ内のアイテムが増えればそのあたりの利便性を考え、実装されているのが普通なんだけど、具体的にどうすればいいのか私にはわからない。


(格納日時の降順にしてくれる?)

《はいなのです》


 ナビちゃんが視界の中央でくるりと体をひと捻りする。

 それだけで、インベントリの全体タブの表示が変わった。最新のアイテムは左上に入り、〝NEW〟の文字が付与されている。

 私はナビちゃんに「ありがとう」と礼をいうと、すぐにアイテムを取り出して鑑定をかけた。


  <鑑定>

  名前:ヴィルタの護符

  説明:生命を司る神、ヴィルタの加護が込められた護符。

     即死攻撃を受けたとき、50%の確率でHPが1残る。


 半分の確率で死なずに済むというのはVITが低めになってしまうハーフリングという職業からすると、いい保険になるからね。本当にありがたい。

 パーティプレイをするにプレイヤーたちにしても、回復職がバトル中に死んでしまうというのは避けたいはず。かなり人気の出るアイテムになるんじゃないかな。


(これは、いいものだね)

《装着することを推奨するのですよ》

(護符だから、服の中に入れておくの?)

《首から掛けるのですよ。首部分のアクセサリとして使用するのです》


 ナビちゃんに言われてインベントリからヴィルタの護符を取り出す。

 木目のような模様が入った金属を薄く削いだような板に、読みかたのわからない文字らしきものと模様が銀色の何かで刻まれていて、板に空いた穴に皮を編んだ紐を通してある。


(これはどんな素材でできているの?)

《ウーツ鋼という金属の板なのです。文字と模様は聖銀を用いて描かれているのですよ》

(同じものは作れるのかな?)

《ウーツ鋼の製造方法は失われていて、作ることができないのです》

(それは残念……)


 別にたくさん作って売ろうと考えたんじゃなくて、硬い金属を薄く削ぐなんてことが鍛冶ではできないから、本当に単純な興味からたずねたんだけどね。やはり神様の護符になると単純に鍛冶や彫金で作れるものじゃないってことなんだね。

 手に取ったヴィルタの護符を首に掛け、スカウトシャツSの中に押し込む。服だったら着ているものを脱がないといけないから試着モードを使うけど、アクセサリくらいは直接脱着できるからね。


(ヴィルタの加護があるなら、他の神の加護が込められたアクセサリが存在するって思っていいのかな?)

《し、知らないのです》


 両手で口を塞ぎ、ナビちゃんは私に背を向けた。

 明らかにネタバレにならないように気をつかっているというか、言わないように設定されているように見えるよね。


(パウラの加護が入った指輪とかあったら、STRに補正が入ったりするのかな?)

《さ、さあ……わからないのです》

(ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃない)


 ナビちゃんは眉尻を下げて、いかにも困ったという表情をつくると、ゆっくりと話し始めた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る