第16話 護符とお守り

《護符の下位アクセサリは木工師が作れるのです。教えられるのはそこまでなのですよ》

(え、それって……)

《木工師のレベルが20になれば、ヴィルタのお守りというアイテムをつくることができるのです》


 既にヴィルタの加護がある護符を手に入れている以上、木工が作る木の護符を作ったところで意味がないような気がするんだよね。でも、指輪やピアス、ブレスレットのようなアクセサリなら下位の効果しかなくても手に入るのはありがたい。木工師のレベル20でヴィルタのお守りが作れるようになるのなら、彫金師のレベル20で他の加護がついたお守りが作れるんじゃないかな。


(ちなみに、ヴィルタのお守りの効果は?)

《致死ダメージを受けたとき、10%の確率でHP1で生き残るのです》

(そっか、ありがとうね)


 とりあえず、ヴィルタの護符は手に入れたので、木工師は後回しでいいかも知れない。アクセサリをたくさん作って、ゴリゴリのステータスになるのもどうかと思うけれど、戦闘が楽になるのはありがたいからね。それに、ダンジョン第5層にいるボスのホブゴブリンはなかなかの強敵なんだろうと思うし、アクセサリで自分自身を強化できるなら、強化しておくに越したことはないからね。


 宝箱は開けてからしばらくすると、地面に吸い込まれるようにして消えていった。


(じゃあ、採掘に戻りましょうか)

《はいなのです》


 ナビちゃんが、採掘師の装備に戻してくれる。

 孔雀石とダンブリ石が採掘できていないからね。それに、彫金師のレベル20でお守りを作るとするなら、ちょうど採掘していた銀を使う可能性がある。だから、もっとたくさん採掘しておきたい。

 私は、再び銀鉱石でできた壁に向けてツルハシを振るった。


《銀鉱石(高)を入手したのです。

 採掘経験値30×2を獲得したのです。

 銀鉱石を入手したのです。

 採掘経験値28×2を獲得したのです。

 銀鉱石(高)を入手したのです。

 採掘経験値30×2を獲得したのです。

 …………

 ……

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベル25になったのです。

 銀鉱石(高)を入手したのです。

 採掘経験値30×2を獲得したのです》


 銀鉱石にも一般品質と高品質なものがあることがわかった。

 鍛冶をしているとき、一般品質の鉄鉱石がギルドマスターから安価に購入できたのもあって、高品質の鉄鉱石を使うのがなんだかもったいないと思っちゃったんだよね。だから、意図的に使わないようにしていた。銀鉱石も、なんだか使わないような予感がする。


 ひとしきり銀鉱石を採掘したあと、それまでと同じように右へ進むということをくり返しながら孔雀石、ダンブリ石の採掘ポイントを見つけ、無事に採掘することができた。

 冒険者のピアスのおかげで、採掘師のレベルは既に26になっている。

 採掘師のレベルのほうはとても順調なんだけど、第5層への入口というか、第4層の出口が見つからない。


(出口が見つからないねえ……)

《第4層のマップは約70%が開放されているのです。残り30%ていどなのですよ》

(そろそろバイタルアラートが出そうなんだけど)

《そのときは第4層入口に戻ればいいのですよ》

(むう……)


 北湖ダンジョン第4層のマップが解放されて、第3層に戻るルートはわかっているけど、第5層に進んでフロアポートの登録を済ませておきたい。次に来るときに、第4層を歩きまわらなくて済むからね。でも、残り30%しかないというのなら、許容範囲かな。それに、ランダムで第4層に宝箱がポップアップするなら、未開放のマップで宝箱を見つけられるかもしれないし……。


(じゃあ、一旦戻ることにするね)

《進まなくていいのです?》

(元々はメインクエスト以外を進めるつもりだったからね。無理することもないでしょ?)

《無理はいけないのです》


 無理せず地上に戻るという案にナビちゃんも賛成のようで、両手を腰にあててコクコクと頷いている。私は踵を返し、第4層入口に向かって歩きだした。



 混みあうダンジョン入口からテレポでグラーノのポータルコアに移動し、生産ギルドに向かう。


「デニスさん、アワビ採ってきましたよ」


 いつものように生け簀で釣り糸を垂れているデニスに声を掛けた。


「おお、アオイじゃないか。レインボーロブスターも採れたのか?」

「ええ、もちろんです」


 私はインベントリから依頼にあったとおり、アワビ3個とレインボーロブスターを1匹取り出し、デニスにみせた。


「こりゃすごい。もう俺から教えることはないな、はっはっはっ」

「ははは……」


 何かを釣ってこいって言うだけで、教わった記憶がないんだけどね。

 釣りをしても餌をとられてたし、本当にギルマスなんだろうか。


「いや、本当にこの町で教えられることはここまで。ほら、これは報酬だ」


《漁師クエスト「刺突漁を覚えよう」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 漁師レベルが25になったのです。

 ミッドレンジギャザラーブーツを入手したのです。

 30,000リーネを入手したのです》 


「ありがとうございます」

「アオイが更に上を目指すのなら、レベル25になったら王都のギルドに行くといい」

「はい、そうします」


 ちょうどレベルも25になったので、気楽に返事を済ませて外に出た。

 ギャザラー系のクエストで残っているのは採掘家ギルドだけだ。漁師ギルドのすぐ近くにある。


「アレンさん、こんにちは」

「よう、嬢ちゃんじゃねえか。なんだ、もう3種類の原石を手に入れて来たのかい?」

「はい、これでいいですよね?」


 アレンの前にあるテーブルに蛍石、孔雀石、ダンブリ石を1つずつ並べ、アレンに確認してもらった。


「うん、3つともいい石だ。ダンジョンの第4層まで行って採掘ができるとなればこの町では一人前だ。恐らく、グラーノ森林地帯に行って月長石を掘ってくることもできるだろう。今は大聖堂から依頼がきていないので月長石は必要ないが、時間があるときにでも取ってくるといい」

「はい。ありがとうございます」

「そうだ、報酬だったな。受け取ってくれ」


《採掘家クエスト「3つの原石」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベルが27になったのです。

 ミッドレンジギャザラーベストを入手したのです。

 30,000リーネを入手したのです》 


「ありがとうございます」


 漁師ギルト、採掘家ギルドで続けて報告したおかげで合計6万リーネもの報酬が手に入った。ブラックバレットのおかげで懐は温かくなっていたけど、クラフターをしていると素材を買ったりするので収入があるのはありがたい。今のところ、クラフターで作ったものを売る場がないことも問題なんだけど、バザーはレベル30になるまで開放されないからね……しかたがない。


「よくここまで頑張った。これまで実力を確認するために色んな素材を採掘してきてもらったが、レベル20になるとこの町で実力を測れる鉱石がないんだ。王都ならレベル25から30でも採掘できるものがある。是非、王都に向かって更に上を目指してくれ」

「はい、わかりました!」


 長かったギャザラー系生産職のクエストもこれでおしまいだね。


(ナビちゃん、現実世界のほうは何時かな?)

《5月1日、日曜日の午前1時なのです》


 え、もうそんな時間なの。5月2日はお仕事だし、そろそろ生活リズムを整えないと!





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