第14話 銀がきたよ
初めてダンジョン第4層に来たときとは逆方向に進んでも、通路の構造は第4層全体で同じようになっていて、枝分かれするようにして分岐していく。
(行きどまりね)
《ひとつ前の分岐まで戻るのですよ》
前回は左に進んだけれど、行き止まりであっても小部屋のようになっていて、そこで採掘できる場所があった。今は右側に進んでいるけれど、まだ採掘ポイントには出会っていない。ゴブリンたちはこの洞窟状になったフロアを定期的に巡回するように歩いているけど、認識阻害(弱)と気配遮断のおかげで、接触しない限りは戦闘に入ることはないので気楽に進んでいける。
先ほど、右側を選んだ分岐に戻り、残ったほうの通路に足を踏み入れた。
少し進んでいくと、洞窟状の壁面に変化が現れる。鉄鉱石のときは縞状鉄鉱床が現れて、そこに鉄鉱石の採掘ポイントがあったんだよね。
「おっ!」
ゆっくりとカーブを描く通路の先に、キラキラと輝く採掘ポイントが見えた。採掘ポイントの周囲は白く濁ったような色をした石で覆われている。岩塩のように何重もの層状になっているわけじゃなくて、岩の表面に付着しているみたいな感じだね。
ツルハシを振りかぶり、先端の重さに任せて採掘ポイントに振り下ろすと、甲高い音が響いてキラキラと輝く石が浮かび、インベントリの中に吸い込まれていく。
《蛍石を入手したのです。
採掘手帳No.23「蛍石」が解放されたのです
採掘経験値24×2を獲得したのです》
これは蛍石っていうんだね。どんな石なんだろう。
<鑑定>
名前:蛍石
説明:火山活動によって結晶化したフッ化カルシウムを主体とする
鉱石で、名前は、紫外線を照射すると青紫色に発光すること
に由来する。フローライトとも呼ばれる。
彫金の材料になる。
蛍石って、フローライトのことだったんだね。パワーストーンなんかで売られているのを見たことがあるけど、こんな形なんだ。
確か、同じフローライトでも含まれている不純物の種類によって色が違ったりするんだよね。ここの場合は不純物が少ないのか、全体的に曇りガラスのような白っぽい石になってるみたい。
でも何より重要なのは彫金の材料になるってところだよね。魔道具師でホバーボードを作ってしまうとグラーノでのクエストなくなるみたいだし、あとで彫金もするつもりだから少し多めに採掘しておこうかな。
金属と鉱石がぶつかる甲高い音が洞窟内に響く。さきほどから何度かゴブリン小隊――3匹でひと組になっているみたいだから、そう思うことにしている――が気付かずに通り過ぎていく。第4層から先は、ミッドレンジギャザラーセットSが必須アイテムになってくるのかも知れないね。とはいえ、他の戦闘職の人が護衛したりするなら必須ではないのかも知れないけれど……。
《蛍石を入手したのです。
採掘経験値24×2を獲得したのです。
レベルが上がったのです。
採掘家レベルが23になったのです。
蛍石を入手したのです。
採掘経験値24×2を獲得したのです》
考えながら採掘作業をしていると、レベルが1つ上がって23になった。蛍石もインベントリに10個も入っている。
(10個もあれば充分かな……)
《残っているのは孔雀石とダンブリ石なのです》
(あ、ダンブリ石ってもしかすると、ダンビュライト?)
《そのとおりなのです。孔雀石はマラカイトと呼ばれる石なのです》
(マラカイトかあ。でも、孔雀石は第1層で採れなかったっけ?)
たしか、銅を採掘しようとしていて足もとに落ちていた気がするんだよね。緑や黄色の混ざった小さな石だったと思う。
《第1層で落ちていたのは、小さすぎるのです》
(やっぱり第1層で採掘できるの?)
《第1層で採れるものは小さくて彫金に使えないのです》
(へえ、そうなんだ……)
彫金といえば、大聖堂の時計では彫金師が配管や銀細工のような細かい仕事をしていたよね。鍛冶師は豪快な仕事のイメージがあるけど、彫金師は繊細な仕事って感じかな。
《蛍石、孔雀石、ダンブリ石は彫金師が磨いてアクセサリに用いるのです。プレイヤーのステータスに影響を与えるアクセサリにすることができるのです》
(あ、だからクエストの名前が3つの原石なんだね)
《そうなのですよ》
ナビちゃんのいうとおりだとすると、例えば非力な私にはSTR強化できる石を使ったアクセサリや、体力不足を補うようなアクセサリを作って装備できるってことなんだろうね。
でも、今回で採れた原石が私のようなハーフリングの特性だとか、スカウターという職業にあった効果がつく石なのかどうかはわからないね。
(そういえば、ダンジョン第2層で日長石と瑠璃原石が採れたよね。たしか、あれも彫金で使うって聞いたような……)
《日長石はサンストーン、瑠璃原石はラピスラズリなのです。蛍石や孔雀石と同じように、ステータスに影響を与えるアクセサリになるのです》
おおっ、これはいいことを聞いた。でも、基礎ステータスとして存在するのはSTRにVIT、INT、DEX、AGI、MNDの6種類ある。これまで出てきた石は日長石、瑠璃原石、蛍石、孔雀石、ダンブリ石の5種類なんだよね。
(ナビちゃん、石は5種類しか採れてないけど、ステータスは6種類あるよね。あと1種類は何て名前の石なの?)
《月長石なのです。別名はムーンストーンで、このダンジョンでは採れないのですよ》
(へえ、そうなんだ……どの石がどのステータスに影響するの?)
《彫金師になればわかるのですよ》
(ま、まあ、そうだね)
今まで採掘してきた石がどのステータス値に対応するかはまだわからないけど、たしかに彫金師になって加工できるようになればわかることだよね。
割り切って考えることで、気持ちよく先に進むことができる。ゴブリンたちが現れても気づかれずに歩きまわれるから気楽にダンジョン第4層を歩きまわった。
かなり第4層の入口近くまで戻ってから以前に通らなかった分岐へと入っていくと、右側の壁全体がキラキラと光る小部屋に入った。どうやら、大小たくさんの採掘ポイントが重なって、全体が採掘ポイントのように見えてるみたいだね。
私は壁の前に立ち、躊躇せずにツルハシを振り下ろした。
《銀鉱石を入手したのです。
採掘手帳No.25「銀鉱石」が解放されたのです
採掘経験値28×2を獲得したのです》
「おおっ!」
思わず声が出た。
銀がきたよ。銀がきたんだよ。
鉄と鉄鋼は鍛冶師で飽きるくらい作ったから、違う鉱物はないかなあと思ってたんだよね。でも、銀って鉄鋼よりも柔らかいし、刃物には向いてないよね。
そういえば、銀といえばアクセサリのイメージが強いし、彫金師で使ったりするのかな。
《銀鉱石を入手したのです。
採掘経験値28×2を獲得したのです。
…………
レベルが上がったのです。
採掘家レベルが24になったのです。
銀鉱石を入手したのです。
採掘経験値28×2を獲得したのです》
(とりあえず銀鉱石を10個ね。まだ孔雀石とダンブリ石がまだだからね)
《そこに宝箱があるのです》
(えっ!?)
視界の中でホバリングしながらナビちゃんが指さす方向を見ると、小部屋の反対側に赤く塗られた木の板と、鈍色をした金属で作られた宝箱がひっそりと佇んでいた。
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